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2019.06.25

大腸がん―女性患者数が急増中の「身近ながん」を防ぐには

ILACY

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男女ともに患者数が増加しているという大腸がん。特に女性は、罹患数2位(※1)、死亡数1位(※2)となっており、今や女性にとって乳がんや子宮がんと並んで、注意が必要ながんといえるでしょう。

※1 国立がん研究センターがん情報サービス「がん登録・統計」(2014年)より
※2 厚生労働省「人口動態統計」(2017年)より

しかも、大腸がんの罹患率は40代以降から増えはじめ、年齢とともに上がっていきます。仕事に家事に、毎日を忙しく過ごしているILACY(アイラシイ)世代こそ、大腸がんのリスクを真剣に考えなければならない年代なのです。

大腸がんを防ぎ、健康な毎日を送るにはどんなことに気を付ければいいのか、東京ミッドタウンクリニックの消化器内科医師である古川真依子先生に伺いました。

食生活の欧米化と便秘は大腸がんのリスク大

――大腸がんとは、どのようながんなのでしょうか。

大腸がんは、結腸と直腸からなる大腸という臓器にできるがんです。「腺腫」と呼ばれる良性のポリープががん化するものと、ポリープなどの経過を経ずに、直接粘膜から発生するものがあります。

国立がん研究センターのがん統計予測によると、2018年の大腸がん罹患者数は男性が胃がんに次いで2位、女性も乳がんに次いで2位となっています。男女ともに増加傾向にありますが、女性の増加が顕著ですね。死亡者数を見ても、男性は肺がん、胃がんに次ぐワースト3位ですが、女性は肺がんを上回りワースト1位となっています。

――なぜ、大腸がんは増えているのでしょう。

高齢化が進んでがんになる人の総数が増えたことや、ほかのがんの治癒率が上がり、見かけの数値が上がっていることも要因のひとつだと思いますが、最大の要因は肉類をはじめ、脂っこい物をとるようになった、食生活の欧米化だといわれています。

昔ながらの和食のほうが、大腸がんのリスクを抑える上ではおすすめですね。特に女性は、便秘の方が多いことも、大腸がん増加の理由のひとつだと思います。便が滞留していると、大腸粘膜の細胞が生まれ変わるサイクルを妨げる要因の一つとなり、炎症等を起こしやすくなるからです。炎症を繰り返せば、がんになる確率は高まります。

――受診のきっかけとなる自覚症状はあるのでしょうか。

大腸がんの初期の段階では、自覚症状はほとんどありません。下血や血便といった自覚症状があって受診し、大腸がんと診断されるケースは、初期に発見できず進行したり転移してしまっているケースが多いです。

40歳前後になると、小さな大腸ポリープができはじめてきますので、早期発見・早期治療のためには40歳を目安とした定期的な検診が最も有効ですね。あとは、家族歴も重大な危険因子です。血縁関係があるご家族の中に大腸がんになった方や大腸ポリープを切除した方がいることがわかったら、ちょっとした違和感や出血も体からのサインかもしれないと考えて、年齢にかかわらず、一度は検査を受けることをおすすめします。

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40歳になったら一度は大腸がん検査を

――40歳になったらまず検査、という意識が重要ですね。

そのとおりです。人間ドックには30代から便潜血検査が組み込まれていますし、胃がん、大腸がんの早期発見を目的として消化器に特化したドックを行っているクリニックもあります。自治体や職場が実施している健康診断でも、40歳以上の方に便潜血検査を行っているところが多いのではないでしょうか。

便潜血検査は、キットを使って自宅で便を採取して提出し、便の中に血液が混じっていないかどうかを調べるものです。1日分の便をとる1日法と、2日にわたって便をとる2日法がありますが、より正確な結果が得られるのは2日法です。2日のうち、1日でも出血が確認されて陽性だった場合には、二次検査としてより精密な検査を行います。

便潜血検査は目に見えない微量の血液成分も検知できますが、検査が陽性となる多くは、大腸がん以外の理由で、精密検査で大腸がんと診断されるケースは多くありません。しかし、一番危険なのは、「どうせ痔だろう」「生理が近かったからだ」と自己判断して、精密検査をスルーしてしまうことですね。

大腸がんは比較的進行が遅く、早期に適切な治療をすれば治る見込みのあるがんですから、早期発見の機会を逃さないようにしていただきたいですね。

――二次検査ではどのようなことをするのでしょう。

肛門から内視鏡を入れる「大腸内視鏡検査」と、大腸に空気を入れてからCT撮影をする「大腸CT検査」、バリウムと空気を注入してX線(レントゲン)撮影を行う「注腸検査」があります。

大腸内視鏡検査

大腸内視鏡検査は、下剤を多量に飲む必要があることや体の中にカメラが入ることに抵抗を感じる人もいらっしゃいますが、大腸の内部を直接見て、ポリープがあればその場で切除したり、粘膜の炎症の評価などができるというメリットがあります。

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大腸CT検査

大腸CT検査は、大腸に炭酸ガスを入れて膨張させてからCT撮影をする方法で、大腸内視鏡検査より比較的苦痛の少ない検査といわれています。ただし、ポリープなどが見つかった場合は、改めて治療をしなくてはなりません。

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注腸検査

注腸検査は、肛門からバリウムと空気を入れ、大腸の粘膜に付いたバリウムの様子を撮影します。こちらも内視鏡よりも苦痛は少ないといわれますが、バリウムを大腸全体に行きわたらせるため、検査台の上で体勢を変えたりなどする必要があります。また、異常があった場合は、改めて内視鏡検査を受けなければなりません。

どの検査も一長一短ありますから、患者さんの要望と状況に合わせて選択しています。また、先ほどもお伝えした通り、血縁関係があるご家族の中に大腸がんや大腸ホリープになった方がいたり、少しでも不安なことがあれば、人間ドックや健康診断のオプションで検査を加えることも可能です。まずは医療施設に相談してみるといいかと思います。

和食中心の食事と規則正しい生活で免疫力を維持

――大腸がんを予防するために、日常生活ではどのような点に気を付けたらいいでしょうか。

やはり、和食を中心とした食事を心掛けてほしいです。特に、脂っこい物やベーコン、ハム、ソーセージなどの加工肉は、大腸がんのリスクが上がるというエビデンスが出ていますから、気を付けていただきたいですね。

偏りのない食事をすると、排便にも良い効果があります。便秘をしないことも大腸がんの予防につながりますから、食物繊維を多く含む野菜や海藻、豆類などを積極的にとり、「きちんと食べてしっかり出す」という意識をもちましょう。

――生活習慣としてはいかがですか。

大腸がんの予防に限らず、健康を維持するには栄養のある食べ物と水分をバランス良くとり、十分な休養と適度な運動を取り入れて規則正しい生活をすることに尽きます。

「いつも便秘ぎみ」「揚げ物や肉を食べることが多く、食生活に偏りがある」といった状況がまったく同じでも、アルコール類の飲みすぎや睡眠不足などで体力や免疫力が落ちていれば、より病気を発症しやすくなります。「だんだん疲れやストレスが溜まってきたな」と感じたら、無理をしないでゆっくり休むことを心掛けましょう。

この記事を監修した人

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古川 真依子 (ふるかわ まいこ) 医師

医学博士/日本内科学会 総合内科専門医、日本消化器病学会 消化器病専門医、日本消化器内視鏡学会 消化器内視鏡専門医・指導医、日本消化管学会 胃腸科専門医、日本ヘリコバクター学会 ピロリ菌感染症認定医 、日本カプセル内視鏡学会 カプセル内視鏡認定医
専門分野:消化器内科・内科

2003年東京女子医科大学卒業
東京女子医科大学附属青山病院消化器内科で医療錬士として関連病院等にて診療にあたり、2008年帰局後は助手として指導にも尽力。2013年より東京ミッドタウンクリニック勤務。胃がん・大腸がん・腫瘍など消化器系の疾患だけでなく、便秘や産後の痔など女性ならではの悩みにも詳しい。

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