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2019.06.19

日本人にやせ形の糖尿病患者が多いのはなぜ?【KenCoM監修医・最新研究レビュー】

KenCoM監修医:石原藤樹先生

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生活習慣病の1つでもある糖尿病は、肥満体型の方が罹患しているイメージがありますが、アジア人ではやせ型の罹患者も多いのだとか。

当連載は、クリニックでの診療を行いながら、世界中の最先端の論文を研究し、さらにKenCoM監修医も務める石原藤樹先生の人気ブログ「北品川藤クリニック院長のブログ」より、KenCoM読者におすすめの内容をピックアップしてご紹介させていただきます。

今回ご紹介するのは、2019年のthe Journal of Clinical Endocrinology & Metabolism誌に掲載された、日本人が肥満がないのにインスリン抵抗性が生じるメカニズムを解析した、順天堂大学などの研究者による論文です。

▼石原先生のブログはこちら

肥満と関連が強いのが、血液中を流れる遊離脂肪酸

肥満になるとインスリンの効きが悪くなる、インスリン抵抗性が生じますが、その2つ橋渡しているのが、血液中を流れる脂肪である、遊離脂肪酸です。

血液中の遊離脂肪酸濃度は、インスリン抵抗性や肥満と強い関連があります。
遊離脂肪酸を血液中で増加させると、それが筋肉や肝臓におけるインスリン抵抗性を生み出すことが、実験的に証明されています。

通常は余分なエネルギーは中性脂肪として、皮下脂肪の組織に蓄えられています。皮下脂肪組織に脂肪を蓄える作用を促進しているのがインスリンです。

しかし、これが一旦病的な肥満の状態になると、筋肉や肝臓においてインスリン抵抗性が生じ、皮下脂肪組織から遊離脂肪酸が放出されて、それが内臓の周辺や肝臓の中に沈着するようになります。これがメタボや脂肪肝です。

アジア人で肥満のない糖尿病が多いのは、体質が関係ある?

日本人を含むアジア人では、肥満のない2型糖尿病の患者さんが多いという特徴があります。

その理由の1つとして、皮下脂肪組織におけるインスリン感受性の低下が、体質的に多く見られるのではないか、という仮説があります。

通常ならもっと皮下脂肪に余分が脂肪が蓄えられるのに、それが出来ずに血液中に遊離脂肪酸が放出されやすい体質があると、血液中の遊離脂肪酸が増加しやすく、それが筋肉や肝臓におけるインスリン抵抗性を招く、原因となっているのではないか、という仮説です。

インスリン感受性の低下により、アジア人は肥満のないメタボ状態になりやすい

この仮説を検証する目的で今回の研究では、BMIが21から25kg/㎡で高血圧や糖尿病のない、ボランティア男性52人を対象として、人工膵臓を用いた検証を行っています。

人工膵臓を用いて皮下脂肪組織におけるインスリン抵抗性を測定し、それを高い群と低い群の半数ずつに分けて検証したところ、皮下脂肪におけるインスリン抵抗性が高いと、それだけ遊離脂肪酸は高くなり、結果として肝臓と筋肉におけるインスリン抵抗性も増加して、肝臓内の脂肪や内臓脂肪の蓄積が起こりやすくなることが確認されました。

つまり、アジア人では皮下脂肪におけるインスリン感受性の低下があるので、肥満がなくても血液中の遊離脂肪酸が増加し易く、それが全身のインスリン抵抗性を惹起して、肥満のないメタボの状態に結び付いているのでは、という仮説を支持するようなデータが得られたのです。

今後、肥満のないメタボの謎が解き明かされるかも?

今回のデータは1度のみの検査での判断なので、今後観察期間をおいて、経時的な変化を観察したり、違う地域や人種で同様の検証を行うなど、今後更なる研究が積み重ねられることで、これまで謎の多かった、肥満のないメタボの謎が解き明かされることを期待したいと思います。

▼参考文献

■石原藤樹(いしはら・ふじき)先生

1963年東京都渋谷区生まれ。信州大学医学部医学科、大学院卒業。医学博士。研究領域はインスリン分泌、カルシウム代謝。臨床は糖尿病、内分泌、循環器を主に研修。信州大学医学部老年内科(内分泌内科)助手を経て、心療内科、小児科を研修の後、1998年より六号通り診療所所長として、地域医療全般に従事。2015年8月六号通り診療所を退職し、北品川藤クリニックを開設、院長に就任。著書に「誰も教えてくれなかったくすりの始め方・やめ方-ガイドラインと文献と臨床知に学ぶ-」(総合医学社)などがある。
・略歴
東京医科大学地域医療指導教授/日本プライマリ・ケア連合学会会員/医師会認定産業医/医師会認定スポーツ医/日本糖尿病協会療養指導医/認知症サポート医
・発表論文
-Differential metabolic requirement for initiation and augmentation of insulin release by glucose: a study with rat pancreatic islets. Journal of Endocrinology(1994)143, 497-503
-Role of Adrenal Androgens in the Development of Arteriosclerosis as Judged by Pulse Wave Velocity and Calcification of the Aorta. Cardiology(1992)80,332-338
-Role of Dehydroepiandrosterone and Dehydroepiandrosterone Sulfate for the Maintenance of Axillary Hair in Women. Horm. Metab.Res.(1993)25,34-36