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2019.06.12

ほどほどの飲酒が健康的って本当?【KenCoM監修医・最新研究レビュー】

KenCoM監修医:石原藤樹先生

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ほどほどにお酒をたしなむのは健康にいい…と聞きますが、逆にお酒は病気のリスクを上げるという説もあります。
お酒と健康の関係、医学的にはなにが正しいのでしょうか?

当連載は、クリニックでの診療を行いながら、世界中の最先端の論文を研究し、さらにKenCoM監修医も務める石原藤樹先生の人気ブログ「北品川藤クリニック院長のブログ」より、KenCoM読者におすすめの内容をピックアップしてご紹介させていただきます。

今回ご紹介するのは、2019年のLancet誌に掲載された、飲酒量と健康についての中国での研究結果です。(※1)
こうした報告はこれまでにも多くあるのですが、今回はさすが中国で非常に大規模であることと、遺伝子変異の解析を行って、アルコール量と健康リスクとの関連が、原因と結果であるかどうかを検証している点が特徴です。

▼石原先生のブログはこちら

どれくらいの飲酒量が一番健康にいいのか

健康のために適切な飲酒量はどのくらいか、というのは未だ解決はされていない問題です。

大量のお酒を飲んでいれば、肝臓も悪くなりますし、心臓病や脳卒中、高血圧などにも、悪影響を及ぼすことは間違いがありません。

ただ、アルコールを少量飲む習慣のある人の方が、全く飲まない人よりも、一部の病気のリスクは低くなり、寿命にも良い影響がある、というような知見も複数存在しています。

日本では厚労省のe-ヘルスケアネットに、日本のデータを元にして、がんと心血管疾患、総死亡において、純アルコールで平均23グラム未満(日本酒1合未満)の飲酒習慣のある方が、全く飲まない人よりリスクが低い、という結果を紹介しています。(※2)

その一方で、2016年のメタ解析の論文によると、確かに飲酒量が1日アルコール23グラム未満であれば、機会飲酒の人とその死亡リスクには左程の差はないのですが、1日1.3グラムを超えるアルコールでは、矢張り死亡リスクは増加する傾向を示していた、というようなデータが紹介されています。(※3)

健康に影響するのは飲酒量?それとも、それに伴う生活習慣?

2017年に発表されたイギリスの大規模疫学データでは、概ね多くの病気において、全くお酒を飲まない人より、1日20グラム程度のアルコールを摂取している人の方が、その発症リスクは低く、それが適正量を超えるとリスクの増加に繋がる、というものになっていました。(※4)

ただ、喉頭癌、食道癌、乳癌など、一部の癌はより少ないアルコール量でも、そのリスクが増加した、というデータもあります。

これまでのデータを整理すると、アルコールの摂取量が少なくとも、ノーリスクとは言えないのですが、その量が1日換算で20から23グラム未満程度であれば、大きな健康上の問題は生じない、と考えて良いように思います。

ただ、この少量の飲酒が最も健康リスクが低い、という現象が、本当に飲酒量そのものが原因で起こっているのか、それともそれに結び付く生活習慣などの影響であるのか、といった点については明確ではありません。

中国にて50万人余のデータを検証

アルコール摂取量と病気の発症リスクに関連はあるのか

今回の研究は中国の大規模なバイオバンクに集められた、512715件という膨大な個人データを解析し、アルコール代謝に影響を与える2種類の遺伝子多型(SNP)と、アルコールの摂取量、そして約10年の観察期間中における、病気の発症リスクとの関連を検証したものです。
お酒の飲める人と飲めない人は、ほぼアルコール代謝の状態によって推測が可能なので、そこから推測された飲酒量と病気との関連を、実際の聞き取りによる飲酒量と病気との関連と、比較しているという訳です。
それが一致しているのであれば、ほぼアルコール量により病気のリスクが影響されている、ということが実証されますし、そこに違いがあれば、酒量以外の要素が影響している可能性がある、ということになる訳です。

その結果、聞き取りによる酒量で解析すると、1週間に100グラム程度のアルコールを摂取している人が、それより多い量や少ない量の飲酒と比較して、虚血性脳梗塞、脳内出血、急性心筋梗塞の発症リスクは、最も低くなっていました。

これは概ねこれまでの疫学データに合致する所見です。

酒量自体より、それに関わる生活習慣が問題の可能性も高い

次に遺伝子多型から推測される飲酒量で解析すると、男性の脳卒中のリスクは飲酒量が多ければ多いほど直線的に増加し、1週間に4グラムから256グラムの間において、一定の飲酒量がある方がリスクが低い、というような関連は認められませんでした。
最も飲酒量との関連が高かったのは脳内出血のリスクで、1週間に280グラムの飲酒当たり1.58倍(95%CI; 1.36から1.84)となっていました。
虚血性梗塞はそれよりは少なく1.27倍(95%CI; 1.13から1.43)でした。
そして、急性心筋梗塞のリスクについては、推計の飲酒量との間に有意な関連は認められませんでした。
以上は全て男性のみでの解析です。

女性においては飲酒量自体が少なく、遺伝子多型を元にして飲酒量を推計しても、脳卒中や心筋梗塞との明確な関連は認められませんでした。

聞き取りで確認した男性の飲酒者においても、遺伝子多型で推測した男性の飲酒者でも、摂取するアルコール量に比例して収縮期血圧は増加しており、それが病気のリスク上昇の一因と想定されました。

このように、少しお酒を飲む習慣があった方が、脳卒中や心筋梗塞のリスクが低い、という現象は、遺伝子多型を用いた解析では再現出来ないことから、酒量自体の影響ではなく、何かそれとリンクした生活習慣など、別の因子によるものの可能性が高そうです。
従ってアルコール量が多いほど高血圧が増え、心疾患や脳卒中のリスクも高まるのですが、それはかなり酒量が多い場合の話で、適正飲酒とされている1日20グラム程度のアルコール摂取においては、あまり大きな影響は与えないと考えて大きな間違いはないようです。

やはりお酒は適量を守って

お酒は適量で、ただし飲酒の習慣のない人は、健康のために無理に飲むような必要はない、というのが現状の科学的事実と言って良いようです。

▼参考文献

<著者/監修医プロフィール>

■石原藤樹(いしはら・ふじき)先生
1963年東京都渋谷区生まれ。信州大学医学部医学科、大学院卒業。医学博士。研究領域はインスリン分泌、カルシウム代謝。臨床は糖尿病、内分泌、循環器を主に研修。信州大学医学部老年内科(内分泌内科)助手を経て、心療内科、小児科を研修の後、1998年より六号通り診療所所長として、地域医療全般に従事。2015年8月六号通り診療所を退職し、北品川藤クリニックを開設、院長に就任。著書に「誰も教えてくれなかったくすりの始め方・やめ方-ガイドラインと文献と臨床知に学ぶ-」(総合医学社)などがある。
・略歴
東京医科大学地域医療指導教授/日本プライマリ・ケア連合学会会員/医師会認定産業医/医師会認定スポーツ医/日本糖尿病協会療養指導医/認知症サポート医
・発表論文
-Differential metabolic requirement for initiation and augmentation of insulin release by glucose: a study with rat pancreatic islets. Journal of Endocrinology(1994)143, 497-503
-Role of Adrenal Androgens in the Development of Arteriosclerosis as Judged by Pulse Wave Velocity and Calcification of the Aorta. Cardiology(1992)80,332-338
-Role of Dehydroepiandrosterone and Dehydroepiandrosterone Sulfate for the Maintenance of Axillary Hair in Women. Horm. Metab.Res.(1993)25,34-36