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2019.03.18

人の意見を聞くと、否定から入ってしまう……【ココロノセンタク#5】

KenCoM公式:臨床心理士・小室愛枝

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こんにちは。臨床心理士の小室愛枝です。
新年度を迎えるにあたり、日頃の自分をふり返るのにちょうどいい時期になりました。今日は、『つい人の提案を否定してしまう……』というテーマをみてみようと思います。
ついつい「いや」とか「ダメ!」から会話が入ってしまう方は参考になるかもしれません。

会話中、反射的に相手の提案を否定してしまうのは、よくあること

会社などで何か部下が新しい提案をしてきたとき、それが自分のよく知る内容であれば「よし、やってみよう」となりやすいかもしれませんが、もし自分の想像していなかった内容で、どうなるのかの予測がつかなかったら、「いや、でもさ…むずかしいんじゃないの?」と、なんとなく反射的に否定しまうことはありませんか?
部下の提案だけでなく、子どもからの提案でも同じようなことが起きたり、保護者会や地域のサークルの中でも似たような現象が起きたりするかもしれません。

どうしてむずかしいと言い切れるのか、よくよく考えてみると実は自分でもわからないかも、なんていうこともあるかもしれません。とっさに「いや」「しかし」と否定してしまう。そんなクセのある人もいるようです。自分がそうだと思う人もいれば、自分の身近な人を思い浮かべる人もあるかもしれませんね。

人の認知は、『同化』と『調節』で行われる

知らないことは、こわい。それは人の自然な感情です。

どうなるか予測のつかないことは、こわい。これも自然な気持ちです。
そしてまた、知らないことに挑戦すること、予測のつかないことに取り組んでみることが私たちを成長させてくれることもまた自然なことで、多くの人はなんとなくその大切さもココロやアタマのどこかではわかっているのではないでしょうか。

乳幼児の発達を研究した人で、ピアジェという人がいます。ピアジェは人の認知発達を研究する中で、『同化』と『調節』という概念を発展させました。
『同化』とは、もともと自分が持っている『シェマ(認知的枠組み)』に外界を取り込んで、物事を理解することを言います。語弊を恐れずに言えば、外界のほうを自分に合わせて取り込む、ということです。電車を知っている人は、初めて訪れる場所で電車を見ても「あぁこれは電車だな」と理解できますね。初めて出会ったその土地のその対象物を、自分の『シェマ』に取り込んで理解したことになります。

『調節』は逆に、もともと自分が持っている『シェマ(認知的枠組み)』では対応しきれない物事に出会ったときに、自分の『シェマ(認知的枠組み)』のほうを変化(修正)させて外界を理解していくことをいいます。電車をまだ見たことのない幼い子どもが初めて電車を見たとき、車でもバスでもないその対象物を理解するために、電車という『シェマ』を新たに獲得して外界を理解することになります。

まずは否定せず、どう自分に取り込むか『調節してみて』

人の発達には、『同化』と『調節』の両方が必要であると言われていますし、こむずかしい言葉は置いておいても、なんとなく「そうだろうなぁ」と思えるのではないでしょうか。

部下からの新しい提案を受け入れるプロセスは、自分の持っている枠組みを修正して外界を理解する『調節』のプロセスに似ている気がします。
それは、受け入れる自分自身だけでなく、会社や組織の発達、すなわち成長・発展にも貢献する可能性があるかもしれません。
ときには「いや、それはちょっとできないよ」と反射的に否定する前に、一度提案についてじっくりと考えを巡らせ、『調節』のプロセスを味わってみてはいかがでしょうか。思わぬ成長につながる…かもしれません。

まずは一呼吸置くこと

ついつい否定から入ってしまう場合、今回挙げた『調節』のプロセスを思い出してみましょう。
パッと思いつかない時には、一呼吸あけるのもいいでしょう。
一回深呼吸をしてから、改めて意見を思い返してみると、別の見方や別の取り入れ方などが思い浮かぶかもしれませんよ。

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著者プロフィール

■小室愛枝(こむろ・よしえ) 
臨床心理士・特別支援教育士。早稲田大学で心理学を学んだのち渡米。ボストンでカウンセリングの修士号を取得後、帰国。学生相談室・心療内科等での勤務を経て、現在は乳幼児の発達相談、小学校の巡回相談心理士、NPO法人らんふぁんぷらざ(発達に偏りを持つ子どもと家族のための支援機関)にて乳幼児から大人まで幅広い層の臨床を行っている。共翻訳著に『虐待・DV・トラウマにさらされた親子への支援――子どもー親心理療法――』(日本評論社)がある。

(文/小室愛枝)