2018.09.01
一人暮らしで動物飼う人の小さくないリスク|飼う前に知っておきたい3つのこと
孤独死したら、残されたペットはどうなる(写真はイメージです。写真:Freee)
「ペットがいると寂しくないですね。家族や恋人と暮らすよりも気楽で、けんかになることもありません。その存在に癒やされるし、生活にハリもでます」
現在1匹のワンちゃんを飼育する田口奈美さん(仮名・52歳・独身)はそう語ります。
2018年1月に発表された国立社会保障・人口問題研究所の将来推計によると、単身世帯は年々増加傾向にあり、2040年には全人口の4割に達すると見込まれています。調査結果を受け、出版社の鎌倉新書が2018年5月に実施した、全国40歳以上の独身男女444人(死別・離別問わず現在未婚の方)を対象とした「おひとりさまの死生観に関する意識調査」によると、結婚を考えていないと答えた人は、70.9%に上り、「ひとりが楽」「面倒」「自由でいたい」という理由のほか、田口さんのように「ペットの犬や猫といるほうが楽しい」という回答も見られました。
また、不動産業界でも、単身者のペット需要の高まりが見られます。東京のいやさか不動産の神田美佳社長は、「ここ数年、ペットと住みたいという単身者からの問い合わせが増えています。それを見越して、すでにペット可に移行した物件は、入居者が早く決まる傾向にあります。まだまだ需要には追いついていませんが、今後ペット可の物件はますます増えていくだろうと予測しています」と話します。
なぜブリーダーは「おひとりさま」を敬遠するのか?
一方で、こうした「ペットを買う単身者が増える状況」に危機感を募らせる人たちもいます。動物保護団体やブリーダーの一部は、単身者にペットを譲ることを敬遠しています。
その理由は2つあります。1つは飼い主が「十分にペットを世話できないことが多いため」です。たとえば仕事などで長時間、家を留守にする場合、ペットを十分に世話できず、鳴き声やにおいの問題からご近所とトラブルが起きがちです。また、転勤など引っ越す際に、「引っ越すから飼えなくなりました」と安易にペットを手放すケースも見られます。
もう1つは、「孤独死」の問題です。単身者の飼い主が亡くなった場合、残されたペットは露頭に迷うことになります。「そんなのはレアケースだろう」という声もあるでしょう。ですが、高齢化が進んでいるせいか、近年こうしたペットを飼う単身者の孤独死による、問題も増えているようです。
特殊清掃(孤独死・殺人・死亡事故などの現場を原状復旧するための専門の技術を持った業者の総称)会社・Freeeの望月清史さんは、「ペットにかかわる依頼が徐々に増えています。においを除去する単純な現場もありますが、故人の遺品整理や孤独死の現場を特殊清掃する際には、ペットの悲惨な現実を目の当たりにすることもあります」と話します。
実際、以下のようなケースがありました。
長い闘病生活の末、病院で亡くなった杉岡道子(仮名)さん。ある日、彼女の親族から望月さんの会社に「故人の遺品整理をしてほしい」という依頼がありました。望月さんが故人の自宅で遺品整理を進めていると、部屋の片隅から白骨化した猫と思われる死骸が見つかりました。おそらく故人が入院してしまったため、誰も世話をする人がおらず、餓死してしまったようです。依頼主である親族は死骸が見つかって初めて、生前の杉岡さんが猫を飼っていた事実を知りました。
望月さんが同業者から聞いた話によると、そのほかにこんなケースもありました。故人の遺品整理に自宅に入ると、ベッドの上で犬がうずくまるようにして亡くなっていました。飼い主が突然入院してしまい、置き去りになっていたようです。
望月さんの「ベッドに飼い主のにおいが染み付いていたんでしょうね」という言葉に複雑な感情を抱きます。
単身者がペットを飼う前に知っておきたい3つのこと
上記のような悲しい事態を避けるためにも、単身者がペットを飼う前に知っておいたほうがいいことを3つ紹介します。
1:ネットワークカメラを活用する
留守中にペットが鳴いても、単身者の場合はそれを知ることができません。しかし、最近は市販の「ネットワークカメラ」を設置すれば、スマートフォンなどで留守中のペットの様子を見ることができます。鳴き声やいたずらなどの原因がわかり、その解決策を見つけられるかもしれません。
2:もしものときに備えていく
単身者の飼い主にもしものことがあった場合、何も備えがなければペットは露頭に迷うことになります。最悪の場合は、前述したケースのように痛ましい姿で餓死してしまうことも。ペットを飼うなら、入院したときの一時的な預け先や、万が一に備えて、「次の飼い主」を決めておくことも重要です。
また、日頃から財布などの貴重品に「ペットを飼っています。私になにかあれば、ここに連絡をしてください」といったメッセージを入れておくこともおすすめします。そのほかにも、ペットの性格や食べ物などの詳細情報を記入したノートを用意しておくと、もしものことがあったとき、次の飼い主の助けになります。
3:困ったときに相談できるペットの専門家を見つけておく
ペットのことでこんな問題が起きた際、単身者はひとりで悩んでしまいがちです。良い解決法を見つけるには、相談できる人を持つことが必須です。かかりつけの獣医師やブリーダーなどの専門家、またはペットを長く飼っている友人に相談することをおすすめします。
単身者がペットを飼うことにはさまざまなリスクがあります。そのため、単身者がペットを飼うことに対して否定的な意見も多く聞かれます。しかしながら、上記のようにリスクを回避する努力や備えをすることで、単身者もペットも共に幸せな時間を過ごすことができると筆者は考えます。
ペットを飼うためには、「終生飼養」の言葉の意味である「飼育している動物が、その寿命を迎えるまで適切に飼育すること」をしっかりと理解し、飼い主の事情でペットが不幸な道をたどらないよう責任と覚悟をもったうえで飼うことが重要でしょう。
阪根 美果:ペットジャーナリスト
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