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2018.06.27

保育園「あえて落ちる」人が続出する本質理由|「不承諾通知狙い」は良いのか?悪いのか?

東洋経済オンライン

保育園にあえて落ちるため、不承諾通知を狙う人たちがいる(写真:CORA/PIXTA)

参照元:https://toyokeizai.net/articles/-/225944?utm_source=deschl&utm_medium=http&utm_campaign=link_back&utm_content=article

保育園にあえて落ちるため、不承諾通知を狙う人たちがいる(写真:CORA/PIXTA)

2018年2月、認可保育園に落選するために入れそうもない人気園を1園だけ希望する「不承諾通知狙い」の入園申請があることが話題になりました。待機児童問題が深刻化する一方で、この動きは何年も前からひそかに広がっていたようです。なぜそんなことが起こるのか。それは批判されるべきことなのか。「保育園を考える親の会」代表で保育事情に詳しい普光院亜紀さんが実情を掘り下げます。

「不承諾通知狙い」を巡る問題を理解するためにはまず、現行の育児休業制度について正しく理解する必要があります。

育児休業制度は1992年、1歳になる前日まで取得できる制度としてスタートしました。2005年、保育園に入れないなどのやむをえない事情があれば1歳半になる前日まで延長できる制度になりました。

さらに、2017年10月からは、同様にやむをえない事情があれば2歳になる前日まで再延長できることになりました。

これは、法律が保障する労働者の権利なので、条件を満たした社員から申請があれば、会社は認めなければなりません。また、延長した期間も雇用保険から育児休業給付金が給付されることになっています。

なぜ不承諾通知が必要なのか

育休延長は、単純に育児休業期間が2歳までに延長されたのとは意味が違います。誰でもできるわけではなく、育休期間が終わる時点(1歳・1歳半)で認可保育園などの利用申込みをしたのに、保育園による保育が実施されないなど、やむをえない事情がある人にだけ認められるものです。

この証明のために、自治体が発行する認可保育園などの「不承諾通知」「入所保留通知」(呼称は自治体による)が必要になります。

「育休を延長できると聞いて安心してしまい、1歳前に入園申請をしなかった」

「認可に入れそうもないから認可外だけ申し込んだけど、入れなかった」

というような場合は、育休延長制度を利用する権利を失ってしまいます。

そんな「うっかり」に注意を促すためもあったでしょう。1歳半までの延長制度ができた後から、ネット上に「不承諾通知のもらい方」を教える情報が流れ始めました。やがて、最初から育休を延長したい人たちの間で、「わざと落ちた」体験が共有されるようになりました。

「不承諾通知狙いの入園申請」は全体の申請数から見れば少数です。現在、多くの親たちが、1年間で最も保育園に入りやすいとされる4月を目指して保活をしている実態があります。

その結果、入園事情の厳しい地域では0歳の4月に育休を切り上げて復帰する人も少なくありません。切実な思いをかかえて保活をしている多くの親からは、「不承諾通知狙いの入園申請」の話題は違和感をもって受けとめられたと思います。

その一方で、「働き方改革」が進まない職場への不安もあり、もう少し子育てにゆとりをもちたい、比重をかけたいという思いも強くなってきていることを感じます。

筆者が代表を務める「保育園を考える親の会」で、「いつでも希望する時期に認可保育園に入れるとしたら、育児休業をいつまでとりたいか」とアンケートをとったところ、「1歳半ごろまで」が最も多く36%を占めました。次いで「1歳まで」が27%、「2歳まで」が14%でした。

育休取得期間は徐々に延伸

2015年度雇用均等基本調査の結果をみると、育休取得期間は全体として延びてきています。この育児休業取得期間には産後休暇(8週)を含みませんが、1歳までとった人は「1年未満」のところに含まれます。2015年度は2012年度に比べて「1年未満」が減って「1歳半未満」が増えています。8か月未満の早期復帰も若干増えています。

実態として育児休業の取得期間が延びている背景には、まず、保育園などに入れずにやむなく延長する人が増えていることが挙げられます。同時に、法定以上の育休制度をもつ勤務先で1年以上の育休を選択している人、意図的に「不承諾通知」をもらって育休を延長している人など、自らの希望で長くとる人も含まれていると考えられます。

ヨーロッパの先進国では、3歳もしくはそれ以上の育児休業をとれる国も少なくありません。しかし、日本の育休制度は、あくまでも1歳までが原則で、育休延長は保育園に入れなかった場合などの救済策として設けられているに過ぎません。

このことが、実はさまざまな歪みをもたらしています。

勤務先が法定どおりの育休制度だった場合、育休を1年以上とりたい人は、不本意ながら入れそうもない人気園を1園だけ希望して落選するのを祈るという方法をとらざるをえません。それでも内定してしまったら、せっかくの内定を辞退する人もいます。

一方、自治体では公正を期すべく、点数制の入園選考を実施しています。

基準を設けて保育の必要性の緊急度を点数化し、同点の場合は家庭や子どもの状況を総合的に検討して優先順位を決めます。市民の生活に大きな影響を及ぼす決定ですので、自治体職員には膨大な作業に緻密に取り組むことが求められます。

「不承諾通知狙い」で保育園に落ちる人たちがいる

ところが、その中に最初から入園を希望しない申請が混じっていることに戸惑いが広がっているのです。

内定辞退の理由には、親や子どもの病気など、家庭状況の変化に伴うものがあり、やむをえない場合もあります。しかし、東京都世田谷区では、年間最大190件程度の「不承諾通知狙いの申請」が行われていると推計しています。

自治体の事務を巡る問題よりも重いのが、そのために落ちる人がいるという事実です。入園を希望していない人が申請したために、その保育園を希望していた別の申請者が不承諾になってしまったり、希望順位の低い園に回らざるをえなくなったりしている可能性があります。

これらの不利益をなくすために、申請書に「内定を辞退する」などのチェック欄を設ける自治体も増えつつあります。

それでも「不承諾通知狙い」の申請が悪いかというと、そうとも言えません。

なぜ、2歳までの育休取得が無条件で希望できないのでしょうか。制度が「不承諾通知」を要求しなければ、親も自治体もこんなことに煩わされずに済むはずです。

「育休延長するのは育児休業給付金をもらうためだけじゃないの?」という疑問を抱く人もいますが、実際は育休延長してもほとんどの人が復職しています。

2015年度雇用均等基本調査によれば、育児休業からの復職率は女性で92.8%、男性で99.9%でした。なお、育児休業給付金が拠出されている雇用保険は現在、十分な黒字運営になっています。

仕事と子育てを両立する方法は多様であっていい

理想は、保育園が十分に整備され、育休制度がもっと寛容になって、男女ともに自分たちの希望や仕事の都合、健康状態などに応じて育児休業取得期間を選べることだと思います。

育児休業期間が延びると、キャリアにおける男女格差をますます広げることになるのではないかという懸念は確かにあります。でも、そこは男性の育児休業の普及やワーク・ライフ・バランスの充実により解消していくことが望まれていると考えています。

仕事や子育てについての考え方やバランスの取り方は人それぞれです。両立する方法がもっと多様であっていいはずだと筆者は思います。

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普光院 亜紀:「保育園を考える親の会」代表

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