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2018.06.13

卵と心血管疾患病の関係【KenCoM監修医・最新研究レビュー】

KenCoM監修医:石原藤樹先生

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卵は栄養豊富で様々な食べ方ができる優良食材。家庭の冷蔵庫に常備してあるという方も多いと思います。しかし、あまり食べすぎるのも体には良くない可能性があるのだとか。

当連載は、クリニックでの診療を行いながら、世界中の最先端の論文を研究し、さらにKenCoM監修医も務める石原藤樹先生の人気ブログ「北品川藤クリニック院長のブログ」より、KenCoM読者におすすめの内容をピックアップしてご紹介させていただきます。

今回ご紹介するのは、2018年のEuropean Journal of Nutrition誌に掲載された、卵の摂取量と心血管疾患リスク、総死亡リスクとの関連についての論文です。

▼石原先生のブログはこちら

卵は健康にいいのか悪いのか

コレステロールを多く含む卵は、動脈硬化を進行させやすいという考え方も

卵と健康との関連については、色々な見方があります。

卵黄には1個に200ミリグラムを超えるコレステロールが含まれています。

血液のコレステロールが高いと、動脈硬化が進行しやすいという知見が得られてから、食事のコレステロールを制限しようという動きが、世界的に高まり、そこで提唱された基準が、食事のコレステロールを1日300ミリグラム以下にする、というものです。

これを達成するためには、卵をなるべく食べないことが、必要不可欠ですから、卵の制限が、健康のためには必要であると考えられたのです。

ところが、2016年に公表されたアメリカのガイドラインにおいては、食事のコレステロールを制限しても、血液のコレステロールを減らせるという根拠は乏しいとして、その目標値は削除されました。

これは、「コレステロールの食事制限は不要」として、一般にも報道されました。
その報道には誤解を招く点があり、実際には数値目標が外れただけで、コレステロールの制限自体は推奨されていたのですが、コレステロールに制限は要らない、という誤ったメッセージに受け取られたことは、残念でした。

コレステロール値や心血管疾患リスクと卵の摂取量の関連は?

関連があるというデータもあれば、ないというデータもある

卵の摂取量と健康との関連については、日本の疫学データでは、NIPPON DATA 80の解析結果が、2004年に発表されています。

それによると、女性においては、週に1から2個の摂取と比較して、毎日1個卵を食べる習慣のある人は、血液のコレステロールが高く、総死亡のリスクも有意に増加していました。
一方で男性にはそうした関連はありませんでした。

ただ、2017年に発表された女性の追跡調査を含めた解析結果では、卵の摂取量と血液のコレステロール値、また心血管疾患のリスクとの間には、有意な関連は認められませんでした。

総死亡やがんのリスクは、卵を多く食べると増加する場合も

しかしここでもなお、1日1個摂取した場合と比較して、毎日2個以上卵を食べる習慣のある人は、総死亡のリスクが2.05倍(95%CI: 1.20から3.52)、癌による死亡のリスクが3.20倍(95%CI: 1.51から6.76)、それぞれ有意に増加していました。

癌による死亡のリスクについては、1日1個摂取した場合と比較して、週に1から2個食べる習慣のある人は、32%(95%CI: 0.47から0.97)有意に低下していました。

つまり、アメリカのデータと同じように、卵の摂取量とコレステロール値や心血管疾患リスクとの間には、今回の追跡調査では関連は認められなかったのですが、総死亡と癌による死亡のリスクについては、卵を多く食べると生命予後が悪いという、一定の関連が認められたのです。

この問題はそう単純ではないようです。

中国における大規模調査では

1週間に7個以上卵を食べても、心血管疾患や総死亡のリスクに影響しなかった

今回の研究は今度は中国において、登録の時点で心血管疾患のない、トータル28024名を、平均で9.8年という長期の経過観察を行なっているもので、1週間に1個未満という卵の摂取と比較して、1週間に7個以上の摂取は、心血管疾患のリスクや総死亡のリスクに、有意な影響を与えていませんでした。

更にこのデータを含めて、過去の主立ったデータをまとめて解析したメタ解析においても、1週間に7個以上の卵の摂取は、心血管疾患のリスクや総死亡のリスクを上昇させることはなく、脳卒中のリスクについては、若干のリスクの低下を認めました。(HR 0.91, 95%CI 0.85-0.98)

卵の食べ過ぎによる安全性は分かっていない

今回のデータも、無尽蔵に卵を食べて良いというものではなく、毎日1個を超える卵の安全性は示されていない、という点には注意が必要ですが、少なくとも毎日1個卵を食べるという習慣については、健康上の害は確認をされていない、というように考えて間違いはないようです。

▼参考文献

<著者/監修医プロフィール>

■石原藤樹(いしはら・ふじき)先生
1963年東京都渋谷区生まれ。信州大学医学部医学科、大学院卒業。医学博士。研究領域はインスリン分泌、カルシウム代謝。臨床は糖尿病、内分泌、循環器を主に研修。信州大学医学部老年内科(内分泌内科)助手を経て、心療内科、小児科を研修の後、1998年より六号通り診療所所長として、地域医療全般に従事。2015年8月六号通り診療所を退職し、北品川藤クリニックを開設、院長に就任。著書に「誰も教えてくれなかったくすりの始め方・やめ方-ガイドラインと文献と臨床知に学ぶ-」(総合医学社)などがある。
・略歴
東京医科大学地域医療指導教授/日本プライマリ・ケア連合学会会員/医師会認定産業医/医師会認定スポーツ医/日本糖尿病協会療養指導医/認知症サポート医
・発表論文
-Differential metabolic requirement for initiation and augmentation of insulin release by glucose: a study with rat pancreatic islets. Journal of Endocrinology(1994)143, 497-503
-Role of Adrenal Androgens in the Development of Arteriosclerosis as Judged by Pulse Wave Velocity and Calcification of the Aorta. Cardiology(1992)80,332-338
-Role of Dehydroepiandrosterone and Dehydroepiandrosterone Sulfate for the Maintenance of Axillary Hair in Women. Horm. Metab.Res.(1993)25,34-36