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2017.09.13

運動量と認知症に関係はある?【KenCoM監修医・最新研究レビュー】

KenCoM監修医:石原藤樹先生

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健康のために体を動かしている方も多いと思いますが、運動は認知症予防にも効果があるのでしょうか。

当連載は、クリニックでの診療を行いながら、世界中の最先端の論文を研究し、さらにKenCoM監修医も務める石原藤樹先生の人気ブログ「石原藤樹のブログ」より、KenCoM読者におすすめの内容をピックアップしてご紹介させていただきます。

今回ご紹介するのは、今年のBritish Medical Journal誌に掲載された、認知症の予防における運動の効果についての論文です。(※1)

▼石原先生のブログはこちら

適度な運動は認知症予防に効果がある?

運動量と認知症予防の関連を調べた試験は数例のみ

適度な運動習慣を持つことが認知症の予防になるということは、何となく直感的に正しいと思うところですし、医療機関などでもそうした指導が行われています。

しかし、実際に根拠はどの程度のものかと言うと、運動の習慣のある人とない人とを10年未満くらいの観察期間の中で比較すると、認知症になる人が運動習慣のない人で多かった、という程度のデータが多く、患者さんを登録して経過をみるような試験は、数えるほどしか行われてはいません。

観察期間10年未満の検査ではあまり意味がない

以前ご紹介した2011年のPNAS誌の論文(※2、※3)では、1年間有酸素運動を行うことにより、MRIにより計算された海馬の容積が、運動後に増加した、というようなものがありましたが、その後追試はないようですし、認知症そのものが予防された、という訳ではありません。

10年未満の観察期間の試験の何が問題かと言うと、認知症における物忘れなどの臨床症状が出現する10年以上前から、βアミロイドなどの異常タンパクの蓄積は、始まっていると想定されるからです。
つまり、10年以内の運動と認知症の出現との間に、一定の関連が見られたとしても、それは運動により認知症が予防されたとは、必ずしも言えないからです。

イギリスで27年間にわたり1万名超を検査

検査では運動習慣と認知症に関連は認められなかった

そこで今回のイギリスの臨床研究では、35歳から55歳の10308名を登録し、運動習慣と認知症の発症との関連を、平均で27年という長期間観察しています。

その結果、観察期間10年から27年の間において、運動習慣や強度と認知症の新規診断との間には、有意な関連は認められませんでした。

ただし、認知症を発症する数年前から運動量が減少する傾向に

その一方、認知症の診断から9年前の時点より、登録者の運動量自体は有意に減少していました。

つまり、これまで10年以内の観察期間において、運動量が多いほど認知症の発症が少ないというデータが認められたのは、運動が認知症を予防したのではなかったのです。
認知症の初期変化の見られるような段階から、その患者さんの運動量は低下し、運動を自発的にすることが少なくなるので、見かけ上そうした関連が認められる、という可能性が高いと考えられます。

認知症の初期症状で運動量が減った可能性も

勿論適度な運動が、心血管疾患の予防という観点からは、有用であることは間違いがない事実なので、このことによって運動は認知症に役に立たない、というようには言えないのですが、これまで報告された運動が認知症を予防する、とされたデータの多くは、認知症の初期症状を解析していた可能性が高い、という指摘は大変示唆的で、運動の認知症に対する効果が、実際にはどの程度のものであるのかについては、今後再検証が必要であるように思います。

▼参考文献

<著者/監修医プロフィール>

■石原藤樹(いしはら・ふじき)先生
1963年東京都渋谷区生まれ。信州大学医学部医学科、大学院卒業。医学博士。研究領域はインスリン分泌、カルシウム代謝。臨床は糖尿病、内分泌、循環器を主に研修。信州大学医学部老年内科(内分泌内科)助手を経て、心療内科、小児科を研修の後、1998年より六号通り診療所所長として、地域医療全般に従事。2015年8月六号通り診療所を退職し、北品川藤クリニックを開設、院長に就任。著書に「誰も教えてくれなかったくすりの始め方・やめ方-ガイドラインと文献と臨床知に学ぶ-」(総合医学社)などがある。
・略歴
東京医科大学地域医療指導教授/日本プライマリ・ケア連合学会会員/医師会認定産業医/医師会認定スポーツ医/日本糖尿病協会療養指導医/認知症サポート医
・発表論文
-Differential metabolic requirement for initiation and augmentation of insulin release by glucose: a study with rat pancreatic islets. Journal of Endocrinology(1994)143, 497-503
-Role of Adrenal Androgens in the Development of Arteriosclerosis as Judged by Pulse Wave Velocity and Calcification of the Aorta. Cardiology(1992)80,332-338
-Role of Dehydroepiandrosterone and Dehydroepiandrosterone Sulfate for the Maintenance of Axillary Hair in Women. Horm. Metab.Res.(1993)25,34-36