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2017.08.16

ジュースを毎日飲むと脳に悪い?【KenCoM監修医・最新研究レビュー】

KenCoM監修医:石原藤樹先生

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私たちの生活で欠かせない清涼飲料水。コンビニや自動販売機などあらゆるところで販売されていますから目にしない日はないでしょう。ですが、清涼飲料水を毎日飲んでいる方は要注意。清涼飲料水に含まれる人工甘味料には一部の病気のリスクを増加させる可能性が指摘されています。

当連載は、クリニックでの診療を行いながら世界中の最先端の論文を研究し、さらにKenCoM監修医も務める石原藤樹先生の人気ブログ「石原藤樹のブログ」より、読者におすすめの内容をピックアップしてご紹介させていただきます。

今回ご紹介するのは、今年のStroke誌に掲載された、砂糖や人工甘味料を含む清涼飲料水の摂取と、脳卒中および認知症のリスクとの関連を検証した論文です。

▼石原先生のブログはこちら

清涼飲料水は身体に悪いのか?

砂糖だけじゃない。人工甘味料が健康に悪影響を及ぼす可能性も

砂糖を多く含むようなジュースを飲むことは、食後の血糖値を上昇させ、それがインスリンの効きを悪くして、動脈硬化を進行させるという疑いが指摘されています。
最近の多くの清涼飲料水で使用されている人工甘味料は、カロリーはなく甘みを感じるので、そうしたリスクはないと考えられていましたが、甘味の受容体を介して膵臓を刺激したり腸内細菌叢を変化させて糖質の吸収を増加させる、というような悪影響を指摘する報告もあります。

これまでに砂糖や人工甘味料を含む清涼飲料水の摂取と、脳卒中のリスクとの関連が指摘されていますが、そうした関連はないとする報告もまたあります。
清涼飲料水と脳卒中との関連については、これまでにあまり詳細な分析がされたことはないようです。
更には砂糖を含む清涼飲料水と人工甘味料との違いについても、その量を含めて直接比較されたことはあまりないようです。

大規模データで清涼飲料水と病気の関連を検証

人工甘味料含有の清涼飲料水を飲み続けている人は、脳梗塞や認知症リスクが増加

今回の研究はフラミンガム心臓研究という有名な大規模疫学データを活用して、
45歳を超える2888名を脳卒中のコホートとして、60歳を超える1484名を認知症のコホートとして、アンケートによる砂糖や人工甘味料を含む清涼飲料水の摂取量と病気との関連を検証しています。

リスクは10年間の累積発症率として算出され、年齢、性別、カロリー摂取量、食事内容、運動量、喫煙の有無、そして認知症のコホートでは教育レベルが関連する因子として補正されリスクが比較されています。

その結果…観察期間中に脳卒中の事例97例(うち虚血性梗塞が82例)、認知症の事例が81例(うちアルツハイマー型認知症が63例)発症していました。

ここで人工甘味料を含む清涼飲料水を、飲む習慣のない人と比較して、週に0から6回飲む人は、虚血性梗塞のリスクが2.62倍(95%CI; 1.26から5.45)。毎日飲む習慣のある人は、虚血性梗塞のリスクが2.96倍(95%CI; 1.26から6.97)、認知症のリスクが2.89倍(95%CI; 1.18から7.07)、それぞれ有意に増加していました。

砂糖含有の清涼飲料水ではリスクが見られない

それ以外の項目には有意差のあるものはありませんでした。
つまり、砂糖含有の清涼飲料水の摂取量と認知症と脳卒中との間には有意な関連はなく、人工甘味料を含む清涼飲料水を週に0から6回飲む人も、認知症のリスクとの関連は認められませんでした。

ここで高血圧や糖尿病といった、心血管疾患のリスクを更に補正すると、虚血性梗塞のリスクと人工甘味料との関連は認められましたが、それ以外の関連は認められなくなりました。

清涼飲料水と病気の関係は未知のまま

今回のデータは例数や観察期間においては、これまでにない規模のものなのですが、結果はそれほどクリアなものとは言えません。

結論的には人工甘味料を含む清涼飲料水のみで、認知症や脳卒中のリスクが上昇したということになりますが、認知症のリスクについては用量依存性はなく、毎日飲む習慣のある人のみにリスクの増加が認められています。
何故もっと悪そうな砂糖を含む清涼飲料水では、同様の関係が認められないのでしょうか?
明確な説明を付けるのは難しそうで、むしろ何か関連する因子の影響がそうした見かけ上の関係を見せているだけなのではないか、というように思えてなりません。

今後の再検証に期待

そんな訳で簡単に清涼飲料水で認知症や脳卒中が増えるとは、現時点では言えないように思いますが、人工甘味料のみでリスクが増加するという知見は興味深く、今後の再検証を期待したいと思います。

▼参考文献

<著者/監修医プロフィール>

■石原藤樹(いしはら・ふじき)先生
1963年東京都渋谷区生まれ。信州大学医学部医学科、大学院卒業。医学博士。研究領域はインスリン分泌、カルシウム代謝。臨床は糖尿病、内分泌、循環器を主に研修。信州大学医学部老年内科(内分泌内科)助手を経て、心療内科、小児科を研修の後、1998年より六号通り診療所所長として、地域医療全般に従事。2015年8月六号通り診療所を退職し、北品川藤クリニックを開設、院長に就任。著書に「誰も教えてくれなかったくすりの始め方・やめ方-ガイドラインと文献と臨床知に学ぶ-」(総合医学社)などがある。
・略歴
東京医科大学地域医療指導教授/日本プライマリ・ケア連合学会会員/医師会認定産業医/医師会認定スポーツ医/日本糖尿病協会療養指導医/認知症サポート医
・発表論文
-Differential metabolic requirement for initiation and augmentation of insulin release by glucose: a study with rat pancreatic islets. Journal of Endocrinology(1994)143, 497-503
-Role of Adrenal Androgens in the Development of Arteriosclerosis as Judged by Pulse Wave Velocity and Calcification of the Aorta. Cardiology(1992)80,332-338
-Role of Dehydroepiandrosterone and Dehydroepiandrosterone Sulfate for the Maintenance of Axillary Hair in Women. Horm. Metab.Res.(1993)25,34-36