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2017.06.16

死亡リスクが最も低い飲酒量はどのぐらい?【KenCoM監修医・最新研究レビュー】

KenCoM監修医:石原藤樹先生

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「酒は百薬の長」とは言いますが、飲みすぎが体に良くないのも事実。どの程度の飲酒が体に影響を与えるのかは、正しく知っておきたいものですよね。

クリニックでの診療を行いながら、世界中の最先端の論文を研究し、ブログに執筆、さらにKenCoM監修医も務める石原藤樹先生。石原先生の人気ブログ「石原藤樹のブログ」より、KenCoM読者におすすめの内容をピックアップしてご紹介させていただきます。

今回ご紹介するのは、今年のBritish Medical Journal誌に掲載された、アルコールの摂取量と病気との関連についての論文です(※1)。

▼石原先生のブログはこちら

お酒の量と病気のなりやすさは関係ある?

少量の飲酒なら体にいいという知見もある

お酒の量と病気との関係については、色々な意見があります。
大量のお酒を飲んでいれば、肝臓も悪くなりますし、心臓病や脳卒中、高血圧などにも、悪影響を及ぼすことは間違いがありません。
ただ、アルコールを少量飲む習慣のある人の方が、全く飲まない人よりも、一部の病気のリスクは低くなり、寿命にも良い影響がある、というような知見も複数存在しています。

1日に日本酒1合程度の飲酒習慣であれば、むしろ病気のリスクが低い

日本では厚労省のe-ヘルスネットに、日本のデータを元にして、がんと心血管疾患、総死亡において、純アルコールで平均23グラム未満(日本酒1合未満)の飲酒習慣のある方が、全く飲まない人よりリスクが低い、という結果を紹介しています(※2)。

その一方で、昨年のメタ解析の論文によると(※3)、確かに飲酒量が1日アルコール23グラム未満であれば、機会飲酒(※編集部注:機会があればお酒を飲む、という意味)の人とその死亡リスクにはさほどの差はないのですが、とはいえ、1日1.3グラムを超えるアルコールでさえ、やはり死亡リスクは増加する傾向を示していた、というようなデータも紹介されています。

190万人余のデータからわかる、飲酒量と心血管疾患リスクの関係とは

お酒を全く飲まない人は、適量飲む人と比べてリスクが高い

今回の研究はイギリスのもので、プライマリケアの診療データをまとめて解析することにより、個々の心血管疾患の発症リスクと、アルコールの摂取量との関連を検証しています。登録の時点では心血管疾患にかかっていない、30歳以上の1,937,360名の診療データが解析の対象となっています。

その結果、登録された190万人余のうち、観察期間中に114,859名が心血管疾患の診断を受けていました。
お酒をイギリスで規定された適正飲酒量の範囲で飲む人と比較して、全くお酒を飲まない人は、

不安定狭心症のリスクが1.33倍(95%CI; 1.21から1.45)
心筋梗塞のリスクが1.32倍(95%CI; 1.24から1.41)
予期せぬ心臓死のリスクが1.56倍(95%CI; 1.38から1.76)
心不全のリスクが1.24倍(95%CI; 1.11から1.38)
虚血性脳梗塞のリスクが1.12倍(95%CI;1.01から1.24)
末梢の動脈疾患(閉塞性動脈硬化症など)のリスクが1.22倍(95%CI;1.13から1.32)
腹部大動脈瘤のリスクが1.32倍(95%CI; 1.17から1.49)

それぞれ有意に増加していました。

過度な飲酒をしている人も、心血管疾患の発症リスクが高い

この場合の適正飲酒というのは、男性で1日アルコール量30グラム以内(1週間で210グラム以内)、女性で1日アルコール量20グラム以内(1週間で140グラム以内)、という基準が採用されています。2016年に男女とも適正飲酒量は1日20グラム以内(1週間で140グラム以内)、と改訂が行われたのですが、このデータはそれ以前のものなので、古い基準が適応されています。

一方で適正量の飲酒を基準とした場合に、それを超える飲酒量では、

予期せぬ心臓死のリスクが1.21倍(95%CI; 1.08から1.35)
心不全のリスクが1.22倍(95%CI; 1.08から1.37)
心停止のリスクが1.50倍(95%CI; 1.26から1.77)
一過性脳虚血発作のリスクが1.11倍(95%CI; 1.02から1.37)
虚血性脳梗塞のリスクが1.33倍(95%CI; 1.09から1.63)
脳内出血のリスクが1.37倍(95%CI; 1.16から1.62)
末梢動脈疾患のリスクが1.35倍(95%CI; 1.23から1.48)

それぞれ有意に増加していました。
しかし、心筋梗塞と安定狭心症の発症リスクについては、有意ではないものの、飲酒量が多い群の方がリスクが低い傾向が認められました。

死亡リスクについては、全くお酒を飲まない人が1.24倍、過剰な飲酒量の人は1.34倍

総死亡のリスクについては、やはり適正範囲の飲酒量を基準とした時に、全くお酒を飲まない人は1.24倍(95%CI; 1.20から1.28)、適正量を超える飲酒をしている人は1.34倍(95%CI; 1.31から1.38)と、いずれも有意に上昇していました。
つまり、お酒を少し飲む人が一番長生きで、沢山飲む人も全く飲まない人も、どちらも死亡リスクは高くなるという結果です。

ほどほどにお酒を嗜む人が長生き

少量の飲酒習慣がある人が、病気になるリスクが1番低いという結果に

今回のデータは概ね多くの病気において、全くお酒を飲まない人より、1日20グラム程度のアルコールを摂取している人の方が、その発症リスクは低く、それが適正量を超えるとリスクの増加に繋がる、というものになっています。

ただ、注意が必要なのは、適度に美味しくお酒を飲めている人は、トータルには体調の良い人が多く、一切お酒を飲まない人は、お酒を飲めない人もいますし、体調があまり良くなくてお酒が飲めない、というような人もいるので、そうしたバイアスが影響している可能性がある、ということです。

今回のデータでは、適正飲酒量を超える集団はひとまとめで評価しているので、より適正範囲の飲酒の人の状態が、良く評価されやすかった、という面もあるように思います。

これは健康な方に限った話で、疾患のある方が無理に飲む必要はない

いずれにしても、お酒を適度に飲むことは、トータルに見て健康上の大きなリスクになることはなく、その習慣の継続に問題はないと思いますし、アルコールを全く飲まれない方は、健康のために無理に飲むようなことは、お考えにはならないのが良いと思います。

アルコールの害が問題になるのは、概ね1日のアルコール量が20グラム(~25グラム)を超えてからで、それより少ない量のアルコールは、全く飲まないこととほぼ同一に考えて問題はない、という理解が妥当ではないかと思います。

ただ、勿論アルコール依存症や、肝機能低下や糖尿病の状態によっては、完全な禁酒の継続が医療上必要なケースもあるので、これはあくまでその時点で健康上の大きな問題がない方に限る、ということは強調しておきたいと思います。

▼参考文献

<著者/監修医プロフィール>

■石原藤樹(いしはら・ふじき)先生
1963年東京都渋谷区生まれ。信州大学医学部医学科、大学院卒業。医学博士。研究領域はインスリン分泌、カルシウム代謝。臨床は糖尿病、内分泌、循環器を主に研修。信州大学医学部老年内科(内分泌内科)助手を経て、心療内科、小児科を研修の後、1998年より六号通り診療所所長として、地域医療全般に従事。2015年8月六号通り診療所を退職し、北品川藤クリニックを開設、院長に就任。著書に「誰も教えてくれなかったくすりの始め方・やめ方-ガイドラインと文献と臨床知に学ぶ-」(総合医学社)などがある。
・略歴
東京医科大学地域医療指導教授/日本プライマリ・ケア連合学会会員/医師会認定産業医/医師会認定スポーツ医/日本糖尿病協会療養指導医/認知症サポート医
・発表論文
-Differential metabolic requirement for initiation and augmentation of insulin release by glucose: a study with rat pancreatic islets. Journal of Endocrinology(1994)143, 497-503
-Role of Adrenal Androgens in the Development of Arteriosclerosis as Judged by Pulse Wave Velocity and Calcification of the Aorta. Cardiology(1992)80,332-338
-Role of Dehydroepiandrosterone and Dehydroepiandrosterone Sulfate for the Maintenance of Axillary Hair in Women. Horm. Metab.Res.(1993)25,34-36