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2017.04.24

肥満予防の救世主?!腸内細菌と食物繊維のはたらきとは?【KenCoM監修医・最新研究レビュー】

KenCoM監修医:石原藤樹先生

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近年、健康との関連性が高いとされ、注目が集まっている「腸内細菌」。人それぞれ多種多様な細菌を腸内に持つことが肥満予防に役立つというのは本当でしょうか?

クリニックでの診療を行いながら、世界中の最先端の論文を研究し、ブログに執筆、さらにKenCoM監修医も務める石原藤樹先生。石原先生の人気ブログ「石原藤樹のブログ」より、KenCoM読者におすすめの内容をピックアップしてご紹介させていただきます。

▼石原先生のブログはこちら

肥満の原因は遺伝か環境か?

肥満の原因は40~75%が遺伝、残りは環境要因ともいえる

肥満が心血管疾患や糖尿病の大きな原因であることは、間違いのない疫学的な事実です。
これまでの双子の研究などの結果によると、肥満の原因の40から75%は遺伝により決まっています。これは裏を返せば、全く同じ遺伝子を持っていても、環境要因により肥満になることもあり、またならないこともある、ということを示しています。

肥満の原因はカロリーの摂り過ぎと運動不足である、というように良く言われます。それは事実ではありますが、その一方で、全く同じ食事量と運動量であっても、やはり太りやすい人とそうでない人とは存在しています。それは代謝量など遺伝的に決まっている因子もありますが、それだけで説明が付くものではありません。

それでは、生まれつき決まっているものではないのに、同じカロリーを摂って太りやすい人と太りにくい人との間には、どのような違いがあるのでしょうか?

腸内細菌は体重の増加に影響する?

腸内細菌が体重増加に影響するのは事実、ただしどの腸内細菌かは未だ不明

最近この点で注目をされているのが、腸内細菌叢の違いです。

腸内細菌が身体の代謝に大きな影響を与えていることは、最近の研究のトレンドの1つで、その違いにより食物の身体での利用のされ方が異なり、同じカロリーを同じように摂っていても、体重の増加の仕方が違うということは、ほぼ間違いのない事実です。

しかし、それではどの腸内細菌が体重増加に繋がり、どの腸内細菌が体重増加を抑制しているのか、というような点については、研究によってもその結果には大きな違いがあり、ある論文では悪の権化のようにされている細菌が、他の論文では正義の味方のような評価を受けている、というような食い違いも稀ではありません。動物実験ではなく、人間を対象とした臨床データも、現時点では不足しています。

体重増加と腸内細菌の関係についての最新研究とは?

1632名の双子のデータで、遺伝要素を除外

今回ご紹介するのは2017年にInternational Journal of Obesityで発表されたイギリスの研究ですが、双子研究のデータを活用し、時間を追った体重増加の経過と、腸内細菌の遺伝子レベルでの分析結果との関連を検証しています。双子の研究であるので、遺伝の影響を簡単に除外出来ることが利点です。

トータルな対象者数は1632名で、便のサンプルを採取して、遺伝子の種別による解析を行い、どのような腸内細菌が含まれているのかをマッピングして、9つに分類した腸内細菌群(※「個々の操作的分類単位毎」という言葉を言い換えました)の体重増加との関連と、その多様性との関連を分析しています。

バランスのよい腸内細菌は体重増加を抑える

その結果、まず長期間の体重増加における遺伝の関与は41%程度で、腸内細菌の多様性、つまり多くの種別の細菌がバランス良く存在していることが、体重増加の抑制に有意に結びついていました。
個別の腸内細菌については、草食動物の胃などに多く存在している、ルミノコッカスという菌群と、ラクノスピラと呼ばれる菌群が増加していると、体重増加の抑制に結び付き、最近肥満予防効果があるとする報告の多い、日和見菌のバクテロイデスについては、単独では体重増加のリスクとして働くものの、菌叢の多様性が保たれていれば、体重増加には結び付かない、という結果になっていました。

食物繊維の摂取は肥満抑制につながる

また、食物繊維の摂取量が多いことは、これも体重増加の抑制と相関を持っていました。

要するに今回の検討では、個々の腸内細菌よりもその多様性のバランスが健康の維持に重要で、バランスが乱れることが病的な体重の増加に結び付く可能性が高い、という結果になっています。

今回の研究は平均で9年くらいという長期の体重増加を見ていて、例数も多く、双子の研究で遺伝の因子を除外出来るなど、これまでの研究にはない多くの利点があり、今後の腸内細菌叢と健康との関連の議論において、一石を投じるような知見であることは間違いがないと思います。

▼参考文献

<著者/監修医プロフィール>

■石原藤樹(いしはら・ふじき)先生
1963年東京都渋谷区生まれ。信州大学医学部医学科、大学院卒業。医学博士。研究領域はインスリン分泌、カルシウム代謝。臨床は糖尿病、内分泌、循環器を主に研修。信州大学医学部老年内科(内分泌内科)助手を経て、心療内科、小児科を研修の後、1998年より六号通り診療所所長として、地域医療全般に従事。2015年8月六号通り診療所を退職し、北品川藤クリニックを開設、院長に就任。著書に「誰も教えてくれなかったくすりの始め方・やめ方-ガイドラインと文献と臨床知に学ぶ-」(総合医学社)などがある。
・略歴
東京医科大学地域医療指導教授/日本プライマリ・ケア連合学会会員/医師会認定産業医/医師会認定スポーツ医/日本糖尿病協会療養指導医/認知症サポート医
・発表論文
-Differential metabolic requirement for initiation and augmentation of insulin release by glucose: a study with rat pancreatic islets. Journal of Endocrinology(1994)143, 497-503
-Role of Adrenal Androgens in the Development of Arteriosclerosis as Judged by Pulse Wave Velocity and Calcification of the Aorta. Cardiology(1992)80,332-338
-Role of Dehydroepiandrosterone and Dehydroepiandrosterone Sulfate for the Maintenance of Axillary Hair in Women. Horm. Metab.Res.(1993)25,34-36