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2017.04.01

企業研修に禅?上司部下、人間関係の悩みを解決する考え方とは

KenCoM編集部

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4月になり春を迎えると、新しいチームや人間関係で仕事を始める方も多くいるかと思います。

2015年に株式会社マクロミルが行った「働く男女1000人ストレス実態調査」によれば、ストレスを感じている働く男女のうち、約58%の人が「職場の人間関係」が原因だと答えています。KenCoMをご覧の皆さんの中にも、新たな人間関係が作られる新年度に不安を抱いている方が少なからずいらっしゃるかもしれません。

じつは今、こうした人間関係のもつれを解消し人材の流出を防ぐために、新入社員や中間管理職の人たちへの研修として禅を取り入れる企業が増えてきているんです。

そこで今回は、東京禅センターの中山宗祐さんに、職場の人間関係における悩みを解消してくれる禅の考え方を伺ってきました。最後には、日々の中で禅の考えを実践するコツも紹介しています。新年度が始まり、新たな人間関係に不安をお持ちの方はぜひ参考にしてみてください。

<お話を伺った方>中山宗祐(なかやま・そうゆう)さん

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■中山宗祐(なかやま・そうゆう)さん:

福島県出身。花園大学を卒業後、埼玉県新座市にある道場で3年間修行を積み、京都本山・妙心寺の教化センターにて一般の方に向けて行う法話会や坐禅会の運営に2年間携わる。現在は、東京禅センターにて企業への禅研修会や、東京都内の寺院を会場にした坐禅会・写経会などのイベント運営を行っている。また、円光寺の副住職も務めている。

企業での禅の研修が増加中?!

――今、社員研修などに禅を取り入れる企業が増えていると伺っています。

そうですね。今年もだいぶ依頼を頂いています。企業の新入社員の方々への研修もそうですが、30〜40代くらいのサラリーマンの方々も禅を学びにこられる方が増えてきましたね。

――禅の研修って具体的にどんなことをするんですか?

特別なことは何もしていません。

寝て、起きて、話を聞いて、ご飯を食べて、掃除をしてという生活をしていただきます。禅の場合は、こうした1つ1つの行いに対して、主体性を持って真面目に励むことが修行となるんです。

その中で主体性がなければ、得るものは何もありません。一方でどんな行いでも学びとして取り込もうという主体性のある人にとっては得るものはたくさんあると思います。

ここで得られる学びというのは、知識で得られるものではありません。そういったものを得たいのであれば、机と椅子があればいい。しかしそうではなく、体験に基づいた気づき・学びが欲しい方にきていただいている、という印象はありますね。

禅で考える新入社員の心得

――新入社員にとっての禅からの学びというのはどういうものでしょうか?

新入社員の時はどうしても、自分が望んだ部署に配属されなかったり、上司から言われた仕事が理想と違ったりなど、自分の思う通りにならないことが多々ありますよね。

そうした時に、仕事にランクをつけたりするんじゃなくて、「与えられた仕事」「与えられたポジション」になりきってくださいってことを坐禅などの体験を通じて伝えています。

まずは与えられた仕事・役割に”なりきる”

――”なりきる”とはどういうことでしょう?

先ほども少しお話ししましたが、禅の修行というのは普通の1日なんです。朝起きて、顔を洗って、ご飯を食べて、掃除をしてという1つ1つの行為を大切にする。その行為になりきることで、考えるよりも先に行動するんです。例えば朝起きる時は「眠いから起きたくないな。」などと考えるよりも、すぐ布団が起き上がる。これがそのまま修行になるんですよ。

これは禅語なんですけど「随所作主 立処皆真(ずいしょにしゅとなれば りっしょみなしんなり)」という言葉があります。

――随所に主となれば、立処皆真なり...どういう意味ですか?

これは「とらわれることのない人になったら、置かれた場所がそのまま真実になりますよ。」という意味です。どこにいったとしても主体的になれ・主人公であれということですね。主体的になると”何かにとらわれる心”を捨てやすくなり、自分のこだわりが無くなります。

禅で考える管理職の心得

――なるほど。管理職の方の場合は何を学べるのでしょうか?

例えば最近多い外資系企業の管理職の方に対しては、まず1つは禅を通じて日本文化を知るという点が大きかったりしますね。職場内、また取引先におけるコミュニケーションの根底に言葉にならないレベルでの日本文化に対する理解が必要で、禅に触れることがその言葉にならない日本文化を理解する手助けになっているようなんです。

それからもう1つは、自分自身をよりどころとすることを学べます。

いわゆる中間管理職の方って上と下に挟まれて、大変ですよね。例えば自分1人で判断をしなければいけない時、あれやこれやと迷っていては決断することが難しくなってしまいます。じゃあ、その時にどうするかっていうと、自分自身を見つめ、自分の考えを持った上で色々な人に指示を出さなければいけない。そういった心の持ち方を知るために、自分自身と向き合いましょうということを禅で学びます。

上司の方には「嫌う底の法勿し(きらうていのほうなし)」という言葉で、禅の教えを伝えたりします。

部下にレッテルを貼らず、素直に受け止める心を持つ

――どういう意味の言葉なのでしょうか?

「この世界に嫌うべきものは何もない。拒否すべきものは何もない。全てをあるがままに受け止める心」をいいます。

どうしてもこだわりの心を持つと見方が固まってしまうんです。
例えば、上司は部下に対して「できる人・できない人」「好きな部下・嫌いな部下」というレッテル貼りをやってしまうことがあります。そうすると同じことを部下がしたとしても、そのことに対して自分でフィルターを作ってしまい、素直に受け入れられなかったり、その人に対して不満を持ってしまったりしてうまく対処できなくなることがあります。
レッテルを剥がし、素直に受け止めることが重要ですね。

日常生活の中での実践方法

――“とらわれない自分”を持てるようになるにはどうすればよいでしょう?

そうですね。新入社員と管理職、どちらの研修にも言えることなんですけど、坐禅をすると自分自身の心の動き、自分が何にとらわれているのかが見えてきます。自分の心にある乱れに気づくことができるんですね。

そして、心がとらわれている原因に気づいたら、そこで考えを膨らませるのではなく、それを捨てることで物事をありのまま見つめられるようになります。

1日の中に自分自身を見つめる時間をつくる

――「とらわれ」や「こだわり」を持たない、というのは日常生活の中でも可能なんですか?

普段の日常で実践するとなると、1日の中で一旦立ち止まる時間を持つことが大事です。仕事が始まる前でも、朝起きてご飯食べる前でも、夜寝る前でもいいので、自分の内側を見つめてください。

今はスマホが普及して常に外の世界と触れ合っていますよね。仕事をやっていればメールの返信や明日の会議のことを考えている。どちらかというと道具に使われ、仕事に追われている状態が続いています。そんな時には、ちゃんと立ち止まって、自分が主体的・主人公になっているかを見つめる時間を作る必要があります。

――どうしても携帯を見てしまったり、時間がもったいないって思ってしまったりします。

「何もない時間」を作るのはたしかに難しいですよね。生活ってずっと流れていくものだから気づきにくいかもしれません。だからこそ、自分が何かにとらわれていることに気づいた時には、心を整えなければいけない。

気づくためには、坐禅をしたりして、自分の内側を見つめる時間をつくる必要があるんです。

――寝る前にスマホの電源を切ったりすると良いかもしれませんね。

そうですね。スマホの普及率と禅の普及率って比例して増えているんです。

SNSなどを通じて、常に外の世界に自分を発信をしているせいで、自分自身の内側を見つめる機会が減っているのではないですかね。だからこそ、内側を見つめることができる禅の需要が高まっているんだと思います。

「まぁ、いっか」と思える柔らかい心を持つ

――なるほど。1日の中に自分の内側を見つめる時間をつくることが大切なんですね!最後に中山さん自身が人間関係において大切にしていることを教えてください。

仕事においては、楽しい雰囲気づくりを大切にしていますね。

「忙しそうだけど大丈夫?」ってよく聞かれるんですけど「趣味みたいなもんだから大丈夫。」って答えています。嫌だなって思いながらやっていると辛いだけになってしまいますよ。なるべく楽しんでやっていると、周りから「あいつ楽しそうだから手伝ってやろうかな」と思われるし、「何か手伝える仕事ない?」って聞かれることもあります。すごい助かっているなって感じますね。

逆に嫌そうに仕事していたら「手伝うのはちょっと嫌だな」ってなってしまいますからね。

――仕事を趣味のように考えるって難しそうです。

あんまり詰め込みすぎず、隙間をつくることが大切なんです。
私の修行時代、ご指導いただいた老師(※編集部注:老師とは禅宗で修行僧を指導する力量を持つ人のことを指す)も仰っていたんですけど「まぁ、いっか」って思える時間があると、気を張っていたものが抜けていくと思います。自分がぎゅうぎゅうになっていたり、心がカチコチに固まっていたりすると相手も傷つけてしまいますから。
無理せず日々を楽しみたいものですね。

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――「まあ、いっか」ですね!心がけたいと思います。ありがとうございました!

今回は中山さんに、企業研修に取り入れられている禅が、新入社員や管理職の方々にどのように理解され、活用されているのかをお伺いしました。
こだわり、思い込み、とらわれを無くし、日々フラットな目で人間関係や出来事に向き合うこと。
そのことで、風通しのよい、気持ちいい人づきあいができるのかもしれません。
職場での人間関係に悩んでいる人に参考にしていただければ幸いです。

また、東京禅センターの中山さんには、以前から禅の効果やオフィスなどで気軽にできる坐禅の方法などのお話も聞いています。興味のある方は是非こちらもご覧くださいね。

▼過去の中山さんの記事はこちら

参考文献

(取材・文:KenCoM編集部)

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