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2022.11.16

雑穀パワー感じるかわいいおやつ。岩手県「へっちょこだんご」【ニッポン地元メシ#33】

kencom公式:管理栄養士・磯村優貴恵

本州では最大の面積を誇る岩手県。
奥羽山脈や北上高地といった山々の間には北上川が流れ、海に面した三陸海岸はギザギザと入り組んでおり、その独特な地形は「リアス海岸」と呼ばれています。
三陸海岸では養殖が盛んで、ホヤやカキ、ウニやアワビ、ワカメなどが獲れる豊かな漁場としても知られています。

広大な土地で山・川・海に恵まれた地形をもつ岩手県ですが、県北地域は特に寒さが厳しく昔から米が育ちにくい地域だったことから雑穀が生産され、それらを使った料理が多く生み出されたそうです。

今回は雑穀が多く取れる土地ならではの郷土料理「へっちょこだんご」を紹介します。

「へっちょこだんご」とは

画像:いわての旅 岩手県観光ポータルサイト

画像:いわての旅 岩手県観光ポータルサイト

とても可愛らしいネーミングの「へっちょこだんご」。
収穫の終わった庭仕舞い(秋仕舞いともいわれます)のあとの行事食として食されるほか、神さまへのお供えとしても作られる郷土料理です。

「へっちょ」というのは「苦労」という意味を持ち、1年間の農作業での苦労をねぎらう意味を込めてつけられたと言われています。また、へっちょこだんごの真ん中がくぼんでいる形状が人間のヘソに見えるから、という説もあります。

「だんご」といえば通常はもち粉や白玉粉など米の粉を用いて作りますが、へっちょこだんごで使用するのは「たかきび粉」「もちあわ粉」「いなきび粉」といった雑穀の粉です。
へっちょこだんごが生まれた岩手県北部は寒さが厳しく、「やませ」と呼ばれる冷たく湿った東寄りの風によって米の栽培が難しい土地でもありました。

そのため、米の代わりに厳しい環境下でも育つ雑穀(アワ、ヒエ、キビなど)や豆類が多く栽培され、それらを使った料理が現在でも多く残っているのです。

へっちょこだんごの作り方

画像:いわての旅 岩手県観光ポータルサイト

画像:いわての旅 岩手県観光ポータルサイト

へっちょこだんごに必要な材料はたかきび、もちあわ、いなきびといった雑穀の粉と熱湯、小豆、砂糖、塩のみです。

まずは小豆、砂糖、塩を用いて甘い小豆汁を作ります。

雑穀の粉は熱湯とあわせて混ぜ、団子状にしたら真ん中をくぼませます。これを温めた小豆汁に入れて煮て、団子が浮かび上がってきたら完成です。
この団子がぷかぷかと浮いてくる様子から「うきうきだんご」と呼ばれることもあるそうですよ。

通常よく目にする白玉団子は真っ白な団子ですが、雑穀は白米と違って色味があります。雑穀の種類によってカラフルな団子になるのも見た目の楽しみとなり特別感が増しますね。

実はこのへっちょこだんご、甘いおやつとしてだけでなく、大根、にんじん、しいたけなどの野菜を味噌や醤油で味付けた汁物に加えることもあり、この場合は「へっちょこだんご汁」と呼ばれます。
団子自体に甘みを加えないため、おやつとしてもおかずとしても使えるのは嬉しいですね。

栄養価は?雑穀パワーでビタミンも豊富

へっちょこだんごの主な材料は「小豆」と「雑穀」です。雑穀は白米と比べてビタミンやミネラルといった栄養素が多く含まれています。

黄色や白色の小粒な雑穀「もちあわ」はタンパク質や適度な脂質が含まれ、余分なナトリウムの調整に役立つカリウムや鉄、亜鉛といったミネラル、糖質のエネルギー代謝に役立つビタミンB1、食物繊維を多く含みます。
黄色の小粒な雑穀「いなきび」はタンパク質に加え、鉄や亜鉛といったミネラル、ビタミンB1、B6、ナイアシンといった栄養素を含みます。
小豆のような深い赤色の雑穀「たかきび」には、エネルギー代謝に欠かせないビタミンB1、B2、B6が含まれるほか、鉄や亜鉛といったミネラル、タンパク質や食物繊維も含まれています。たかきびの味の特徴としてほのかな苦味がありますが、この苦味が小豆汁の甘みをより引き立ててくれるのです。

そして小豆には、抗酸化力の高いポリフェノールや腸内環境を整えるのに役立つ食物繊維が多く含まれます。

エネルギー源である糖質はもちろん、甘いおやつでタンパク質からビタミン、ミネラルまで補給できるのは、農作業を一生懸命に頑張った心と身体のごほうびとも言えますね!

県南はもち文化!いろんな食文化を楽しんで

画像:いわての旅 岩手県観光ポータルサイト

画像:いわての旅 岩手県観光ポータルサイト

ところで、お米の栽培が難しい県北と相反して、岩手県の県南は比較的温暖で安定してお米の栽培ができる土地。
江戸時代には毎月1日と15日に「もち」をついて神仏に供え平安息災を祈る習慣が広まり、現在に至るまでおよそ400年ものあいだ独自のもち文化が続いています。

中でも一関や平泉のもち文化を代表するのが「もち本膳」。祝いの席で振る舞われる儀礼食で、丸餅を用いた雑煮やあんこ餅のほかにずんだやくるみなど様々な食材を絡めていただく料理があります。
もち料理に関する食材のバリエーションはなんと300種類以上も存在すると言われているそう。

同じ県でも北と南で食の文化が違うのはとても興味深いですね。岩手県に行かれた際は様々な地域の味を堪能してみてはいかがでしょか。

参考サイト:
出典:豊かな恵みをもたらす 東日本の農林水産業(1) 農林水産省Webサイト(https://www.maff.go.jp/j/pr/aff/1105/higashi_01.html)
出典:東北地方 岩手県 農林水産省Webサイト(https://www.maff.go.jp/j/keikaku/syokubunka/k_ryouri/area_stories/iwate.html)
出典:伝統餅料理 岩手県 農林水産省Webサイト(https://www.maff.go.jp/j/keikaku/syokubunka/k_ryouri/search_menu/menu/28_6_iwate.html)
出典:へっちょこだんご/うきうきだんご 岩手県 農林水産省Webサイト(https://www.maff.go.jp/j/keikaku/syokubunka/k_ryouri/search_menu/menu/28_14_iwate.html)

「ニッポン地元メシ」過去連載はこちら

磯村 優貴恵(いそむら・ゆきえ)

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管理栄養士・料理家
大学卒業後、大手痩身専門のサロンにて管理栄養士としてお客様の身体をサポート。その際に具体的な料理提案の必要性を感じ、飲食店の厨房にて約3年間の料理修行を行う。
その後、特定保健指導を経て独立。現在は、茶道教室にて茶事講座や茶事での茶懐石の献立提案~調理を行うほか、子供から大人まで家族みんながおいしく食べられて健康になれるよう、レシピ・商品開発や執筆など幅広く活動中。

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