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2022.11.02

具だくさんな冬のほっこり料理。青森県「けの汁」【ニッポン地元メシ#32】

kencom公式:管理栄養士・磯村優貴恵

本州の最北端に位置する青森県。
日本海、津軽海峡、太平洋に囲まれており、「大間のマグロ」でも知られているように豊かな漁場に恵まれた地域です。

青森県といえば、その冷涼な気候を生かしたさまざまな農作物が有名です。
代名詞ともいえる「りんご」は国内生産量ダントツの1位。そして耐寒品種のお米や長芋、にんにくの産地でもあります。

観光名所としては世界遺産の白神山地や、日本百名山のひとつである八甲田山。青森ねぶた祭(地域によっては「ねぷた」とも呼ばれます)などの伝統行事も盛んです。

青森県は県を二つに分けるように存在する奥羽山脈を境に「津軽地方(西側)」「南部地方(東側)」そして南部地方から津軽海峡に突き出した「下北地方」の3つに分けられます。
それぞれ気候が違うこともあり、米文化、粉文化、芋文化と食においての違いがありますが、今回は津軽地方の郷土料理「けの汁」を紹介します。

けの汁、その意味とは?

出典:農林水産省Webサイト(https://www.maff.go.jp/j/keikaku/syokubunka/k_ryouri/search_menu/menu/kenojiru_aomori.html)

出典:農林水産省Webサイト(https://www.maff.go.jp/j/keikaku/syokubunka/k_ryouri/search_menu/menu/kenojiru_aomori.html)

「け」と聞くと「ハレとケ」のイメージを持たれる方も多いかもしれません。
しかしここで言う「け」は、津軽地方の方言で「粥(かゆ)」をさし、白い粥にそえて食べる汁、また粥にかけて食べる汁という意味から、「粥(け)の汁」と呼ばれるようになったともいわれています。

けの汁の特徴は具材が細かく刻んであることですが、これはお米が貴重な時代に具材をお米に見立てるために考えられたといわれています。

正月明けの定番料理

けの汁は家庭でも親しまれている郷土料理のひとつで、小正月(1月15日・女正月ともいわれる)の定番となっています。
正月に忙しく働いたお嫁さんが小正月に里帰りをする際に家族のために用意した、栄養豊富な「作り置き」のような存在。何度も温め直しながら4~5日かけていただくのだそうです。

また、けの汁をいただくのは1年の無病息災を祈っていただくという意味もあるため、「津軽の七草がゆ」とも呼ばれています。

けの汁は各家庭で使う食材や味付けに少しずつ違いがあり、「おふくろの味」としても親しまれています。

けの汁の作り方

出典:農林水産省Webサイト(https://www.maff.go.jp/j/keikaku/syokubunka/k_ryouri/search_menu/menu/kenojiru_aomori.html)

出典:農林水産省Webサイト(https://www.maff.go.jp/j/keikaku/syokubunka/k_ryouri/search_menu/menu/kenojiru_aomori.html)

けの汁の特徴は何といってもその具材の多さ!そして動物性の食材を使わないため「精進料理」となります。

まずは食材を切るところからスタートします。
刻むのは大根、にんじん、ごぼう、わらび、ふきなどの野菜類です。
大根やにんじんは5mm角に切ります。わらびやふきは下処理をしてから2cmほどの食べやすい長さに切ります。ごぼうはささがきにします。

次にタンパク源でもある油揚げ、凍み豆腐、大豆の水煮(もしくは蒸し大豆)。油揚げは細く刻み、凍み豆腐は解凍してから使います。大豆はすり鉢でつぶして「ずんだ」(ペースト状)にします。

昆布は出汁用と具用と2種類ありますが、具用は軽く炙ってから手で砕きます。
鉄なべに出汁用の昆布、大根やにんじん、ごぼうを入れて水からじっくりと煮て、根菜類に火が通ったらふきと凍み豆腐を入れ優しく混ぜ合わせます。
そして全体が煮立ったらずんだを入れて混ぜ、最後に味付けでもある味噌、そしてわらびと油揚げを加えます。

煮込む時間が長くなるほどに食材が柔らかくなるため、煮崩れしないようにヘラで優しく混ぜるのがポイント。
食材や味付けは家庭によって違いがあり、ゼンマイやこんにゃくを使ったり、醤油を少し加えたりすることもあるようです。

身体を芯まであたためて冬の栄養補給

年末年始時期は普段とは違って豪華な食事が続き、運動量も減るという方も多いのではないでしょうか。そうなると気になるのが身体のメンテナンス。

けの汁には野菜が多く使われているため、食物繊維をしっかりと摂ることができます。
また胃が疲れている場合には、同じ食物繊維でも生野菜のように繊維が硬い状態だと身体の負担に。けの汁のようにしっかりと煮込まれて繊維が柔らかくなってれば、生野菜よりも胃への負担が軽くなるのも嬉しいところです。

精進料理と聞くとタンパク質やミネラルが不足しやすいイメージもあると思いますが、けの汁は畑の肉とも呼ばれるほどタンパク質が豊富な「大豆」を多く使います。
ずんだのようにすりつぶした大豆をはじめ、油揚げ、凍み豆腐これらすべて大豆が原料です。

鉄なべで鉄分も補給

また今回紹介したレシピのように、鉄なべを使うことで鉄を補給することができます。
鉄製鍋を使う料理方法は、運動量が多い方や月経のある女性、成長期の子どもなど鉄の喪失量が多い方にはおすすめ。けの汁に限らず、鉄瓶で沸かしたお湯をいただく、煮物に鉄玉(黒豆を炊く際に色を安定させるために使用される方も多いと思います)を入れるなど、鍋以外でも鉄を飲み物や食べ物にプラスすることは可能です。

多くの材料をひとつの鍋で煮ることで、より素材のうま味をしっかりと感じることができる点も嬉しいですね!
正月に豪華な食事をいただいたあとは、このようなしっかりと加熱された食事をゆっくりといただきながら胃腸をいたわってあげることも大切ですね。

青森県は汁物の宝庫

出典:農林水産省Webサイト(https://www.maff.go.jp/j/keikaku/syokubunka/k_ryouri/search_menu/menu/senbei_jiru_aomori.html)

出典:農林水産省Webサイト(https://www.maff.go.jp/j/keikaku/syokubunka/k_ryouri/search_menu/menu/senbei_jiru_aomori.html)

青森県には身体が温まる汁物が多くあります。

贅沢の極みともいえる、ウニとアワビのお吸い物「いちご煮」。
かたく焼いた南部せんべいを汁にしていただく「せんべい汁」。
ホタテの貝殻を鍋代わりにし、だし汁と味噌を使って卵でとじた「味噌貝焼き」。
鱈のアラを余すことなくたっぷりと使用した「じゃっぱ汁」。
11月の農作業が無事に終わった際にいただく、あんこ入りのお団子が2つ入った「けいらん汁」など。

汁にしっかり溶け込んだ食材のうま味や栄養を余すところなくいただけるのが汁物の良さ。
みなさんも季節の変わり目や寒い冬を元気に乗り超えるために、ぜひ青森県の自然が詰まった汁物を堪能してみてはいかがでしょうか。

出典:農林水産省Webサイト(https://www.maff.go.jp/j/keikaku/syokubunka/k_ryouri/search_menu/area/aomori.html)
出典:農林水産省Webサイト(https://www.maff.go.jp/j/keikaku/syokubunka/k_ryouri/search_menu/menu/kenojiru_aomori.html)
参考:青森県「けの汁」JAごしょつがる女性部(https://life.ja-group.jp/recipe/detail?id=5032)

「ニッポン地元メシ」過去連載はこちら

磯村 優貴恵(いそむら・ゆきえ)

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管理栄養士・料理家
大学卒業後、大手痩身専門のサロンにて管理栄養士としてお客様の身体をサポート。その際に具体的な料理提案の必要性を感じ、飲食店の厨房にて約3年間の料理修行を行う。
その後、特定保健指導を経て独立。現在は、茶道教室にて茶事講座や茶事での茶懐石の献立提案~調理を行うほか、子供から大人まで家族みんながおいしく食べられて健康になれるよう、レシピ・商品開発や執筆など幅広く活動中。

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