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2022.07.06

夏の冷え対策やダイエットにも!神奈川県「けんちん汁」【ニッポン地元メシ#24】

kencom公式:管理栄養士・磯村優貴恵

横浜、みなとみらい、鎌倉、箱根など観光スポットをあげればキリがない神奈川県。
東京に隣接し、人口はおよそ900万人という巨大な県でありながらも、海と山があり自然に恵まれ観光名所も多い土地です。

幕府が開かれた鎌倉や城のある小田原など、日本史の中でも有名な土地も多く存在します。
また日本の歴史のみならず、浦賀や横浜など海外との貿易の拠点もあったことから、異国の文化が多くみられるのも神奈川県ならでは。

農業漁業に関しては、都市に近いこともあり、大根やキャベツなどの野菜から、みかんや梨などの果物まで栽培が盛んです。鎌倉野菜も有名ですね。
また、マグロやしらすといった海の幸も豊富に獲れます。

そんな神奈川県から今回は「けんちん汁」を紹介します。

けんちん汁とは

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けんちん汁とは根菜類と豆腐を使った具沢山の汁物です。
今では全国的にもメジャーな汁物なので、神奈川県の郷土料理と聞いて驚いた方もいるのではないでしょうか。

けんちん汁の発祥には諸説ありますが、その一つは中国の普茶料理(ふちゃりょうり)のひとつである巻繊(けんちゃん)が日本語になったという説です。普茶料理とは本宗の開祖隠元禅師が中国から伝えた精進料理のことです。

そしてもう一つが、神奈川県鎌倉市にある建長寺で食べられている「建長汁」が「けんちんじる」と呼ばれるようになったという説です。
建長寺では700年も前からけんちん汁が食べられていたそうです。建長寺で修業をした際にけんちん汁を食した僧侶が全国へ派遣されたことで、けんちん汁も一緒に広まったともいわれています。

作り方のコツは「たくさん作る」こと!

けんちん汁の作り方はとてもシンプルです。

材料は大根、にんじん、ごぼうなどの根菜、干し椎茸、昆布、こんにゃく、木綿豆腐です。
このほかにもれんこんや油揚げ、里芋などお好みの植物性の食材を使って作ることもあります。

なお、けんちん汁は精進料理なので、出汁にも鰹節は使わずに干し椎茸と昆布を水に浸けてとります。

まず根菜類は食べやすい大きさに切りそろえ、豆腐は手でランダムにちぎります。
こんにゃくはあく抜きをしたのち、食べやすい大きさにちぎり乾煎りをして余分な水分を取ることで味染みがよくなります。

鍋にごま油を熱し、根菜を炒め合わせ、こんにゃくも加えたのち、だし汁を加えて柔らかくなるまで煮ます。
味付けは塩と醤油のみ。最後に豆腐を加えて完成です。

汁物や煮物の特徴のひとつでもありますが、一度にたくさん作るとその分使う食材の量も増えるため、食材から出るうま味や甘味も増え、より美味しく仕上がります。
700年前の建長寺でも僧侶全員分を作っていたということは、家庭で作る量の何倍もの量だったはず。動物性の食材を使ってなくとも、うま味たっぷりの満足度の高い汁物となったのでしょうね。

この「大量に作る」という点は、給食のカレーや味噌汁が美味しい!と感じる理由のひとつと同じですね。
また、こんにゃくは手もしくはスプーンや湯呑みの口を使って、豆腐は手でちぎることで断面がランダムになります。これにより、出汁が絡まりやすく、美味しく食べられるのです。

けんちん汁の栄養

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まず、動物性タンパク質ほどではありませんが、木綿豆腐が入っていることでタンパク質を摂ることができます。

そして、けんちん汁の栄養は何といっても「食物繊維」ではないでしょうか。
食物繊維は体内では血糖値の急上昇を抑えたり、余分なコレステロールを排泄したり、腸内細菌のエサとなったり、腸を刺激したり便のカサを増やして便通をスムーズにしたりと、私たちの健康を支えるためにはなくてはならない栄養素です。

食物繊維は現代の日本人には不足しがちと言われており、積極的に摂ることが推奨されています。
根菜類には食物繊維が多く含まれていますし、根菜類はよく噛んで食べることができるため、満足感も高まりやすくダイエット中でも嬉しい汁物メニューです。

また、野菜に含まれているミネラルのひとつカリウムは、余分なナトリウムを排泄することでむくみの予防にも役立ちます。
カリウムは水に溶ける性質があるため、例えば生野菜サラダを作るときにしっかり洗って長時間水に浸けるとせっかくのカリウムが水に溶け出てしまいます。
しかしけんちん汁のような汁物であれば、出汁に溶けだしたものもすべていただけますので、余すことなく栄養を摂ることができます。

食物繊維を摂ることを意識すると、ついつい山盛りの野菜サラダを想像する方も多いと思いますが、けんちん汁のように根菜やこんにゃくをたっぷり使った汁物で摂れるのは、身体を温める(冷やさない)という意味でも嬉しいですね。

冷房の冷え対策にも!夏にけんちん汁を食べよう

けんちん汁は根菜を多く使った汁物ということで、冬場に食べられることが多い料理です。
しかし夏場は冷房で身体が冷えていることも多いため、食材を工夫して夏に食べるのもおすすめです。

冷蔵庫に少しずつ残った野菜を活用し、和風ミネストローネという感覚でご自宅でも楽しんでみてはいかがでしょうか。

「ニッポン地元メシ」過去連載はこちら

画像:農林水産省Webサイト(https://www.maff.go.jp/j/keikaku/syokubunka/k_ryouri/search_menu/menu/35_1_kanagawa.html)

参考:農林水産省Webサイト(https://www.maff.go.jp/j/keikaku/syokubunka/k_ryouri/area_stories/kanagawa.html)

磯村 優貴恵(いそむら・ゆきえ)

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管理栄養士・料理家
大学卒業後、大手痩身専門のサロンにて管理栄養士としてお客様の身体をサポート。その際に具体的な料理提案の必要性を感じ、飲食店の厨房にて約3年間の料理修行を行う。
その後、特定保健指導を経て独立。現在は、茶道教室にて茶事講座や茶事での茶懐石の献立提案~調理を行うほか、子供から大人まで家族みんながおいしく食べられて健康になれるよう、レシピ・商品開発や執筆など幅広く活動中。

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