2022.03.10
「孤独」を病気としてとらえた場合の有病率は【kencom監修医・最新研究レビュー】
「孤独」は、心のみならず身体にも良い影響を与えません。どれくらいの方が孤独に悩まされているのでしょうか。
当連載は、クリニックでの診療を行いながら、世界中の最先端の論文を研究し、さらにkencom監修医も務める石原藤樹先生の人気ブログ「北品川藤クリニック院長のブログ」より、kencom読者におすすめの内容をピックアップしてご紹介させていただきます。
今回ご紹介するのは、British Medical Journal誌に、2022年2月9日ウェブ掲載された、孤独を病気としてとらえた論文です。(※1)
▼石原先生のブログはこちら
孤独が身体に与える悪影響とは
「孤独」というのは、それが慢性的で重い状態である場合には、公衆衛生上の大きなリスクになる、という捉え方を最近はされるようになっています。
ここで言う「孤独(loneliness)」というのは、人が望むような他者との関わりを持つことが出来ず、そのために強いネガティブな感情を持つことです。
対になるような言葉に「孤立(social isolation)」があり、こちらは実際に他者と関われないような環境があることです。
たとえばコロナ禍で大学生が友達と交流を持てない、というのが孤立状態で、それが続くことにより、その孤立を強いストレスと感じる、孤独が生じるのです。
孤独はストレスホルモンを増加させ、身体の緊張状態を高めます。疫学的研究では、多くの心血管疾患のリスクとも関連があると報告されています。
2015年に発表されたメタ解析によると(※2、※3)、慢性的な孤独症状は、総死亡のリスクを26%増加させ、これは肥満や運動不足と同じくらいの影響を、健康に与えると推計されています。
孤独を病気として捉えた場合の有病率を世界113か国で調査
今回の研究はこの病気としての「孤独」の有病率を、世界113か国の疫学データをもとに解析した、メタ解析の研究です。
世界113か国の57の疫学研究のデータをまとめて解析したところ、思春期の孤独の有病率は、南東アジアが最も低く9.2%(95%CI:6.8から12.4)、東地中海沿岸地域が最も高く、14.4%(95%CI:12.2から17.1)に上っていました。
地域ごとの解析データがあるのはヨーロッパのみで、それによると年齢を問わず、孤独の有病率が最も低いのは北欧諸国で、高いのが東欧諸国という傾向が見られました。
ヨーロッパ以外に地域においては、データのばらつきも大きく、何を病気としての孤独とするかの統一もないため、同様の解析は施行することは困難でした。
孤独の定義は厳密に検証するべき
このように、仮に孤独を病気として取り扱うとしても、まだ科学的に使用可能なデータは限られており、今後何を孤独として定義するのかの定義を含めて、この問題はより厳密に検証される必要がありそうです。
▼参考文献
<著者/監修医プロフィール>
■石原藤樹(いしはら・ふじき)先生
1963年東京都渋谷区生まれ。信州大学医学部医学科、大学院卒業。医学博士。研究領域はインスリン分泌、カルシウム代謝。臨床は糖尿病、内分泌、循環器を主に研修。信州大学医学部老年内科(内分泌内科)助手を経て、心療内科、小児科を研修の後、1998年より六号通り診療所所長として、地域医療全般に従事。2015年8月六号通り診療所を退職し、北品川藤クリニックを開設、院長に就任。2021年には北品川藤サテライトクリニックを開院。著書多数。
・略歴
東京医科大学地域医療指導教授/日本プライマリ・ケア連合学会会員/医師会認定産業医/医師会認定スポーツ医/日本糖尿病協会療養指導医/認知症サポート医
・発表論文
-Differential metabolic requirement for initiation and augmentation of insulin release by glucose: a study with rat pancreatic islets. Journal of Endocrinology(1994)143, 497-503
-Role of Adrenal Androgens in the Development of Arteriosclerosis as Judged by Pulse Wave Velocity and Calcification of the Aorta. Cardiology(1992)80,332-338
-Role of Dehydroepiandrosterone and Dehydroepiandrosterone Sulfate for the Maintenance of Axillary Hair in Women. Horm. Metab.Res.(1993)25,34-36