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2022.01.06

今が旬のほうれん草。尿路結石のリスクとの関係は【kencom監修医・最新研究レビュー】

kencom監修医:石原藤樹先生

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栄養価も高く美味しいほうれん草は、今が旬。しかし、ほうれん草のあくの成分であるシュウ酸には、腎尿路結石リスクとの関連があるかもしれません。

当連載は、クリニックでの診療を行いながら、世界中の最先端の論文を研究し、さらにkencom監修医も務める石原藤樹先生の人気ブログ「北品川藤クリニック院長のブログ」より、kencom読者におすすめの内容をピックアップしてご紹介させていただきます。

今回ご紹介するのは、J Am Soc Nephrol誌に2007年に掲載された、食事のシュウ酸の摂取量と、腎尿路結石リスクとの関連についての論文です。

▼石原先生のブログはこちら

ほうれん草の摂取量と結石リスクとの関連とは?

腎結石の予防というような解説記事を読むと、「ほうれん草の制限が必要となることがある」というような記載があります。ほうれん草にはシュウ酸カルシウム結石の要因である、シュウ酸が多いためだと大抵書かれています。

ただ、その根拠となるような具体的な知見は、ほぼほぼ何処にも記載されていません。

これは単純にシュウ酸がほうれん草に多い、ということだけから導かれた知見であるのか、それとも疫学データなり臨床試験なりで、ほうれん草の摂取量と結石リスクとの関連が、明確に示されているのか、一体どちらなのか疑問に思い文献検索をしてみたところ、まとまった疫学データとして目に留まった文献です。

内容を読んでみたところ、ほぼほぼこの論文をソースとして、解説記事が書かれていることが分かったので今回ご紹介します。

腎尿路結石の原因の多くは「シュウ酸カルシウム結石」

腎尿路結石の原因には幾つかありますが、最も多いのが「シュウ酸カルシウム結石」によるものです。

シュウ酸(oxalate)は、ほうれん草、タケノコなどに多く含まれる灰汁の成分ですが、身体ではビタミンCなどの代謝産物などとしても合成されます。つまり、コレステロールと同じように、身体から排泄されるシュウ酸には、食事由来のものと、身体の代謝由来のものの2種類があるのです。

尿に排泄されるシュウ酸のうち、どのくらいが食事由来であるかは正確には分かっておらず、これまでの報告でも10から50%とかなりの幅があります。

それでは、実際にほうれん草などシュウ酸を多く含む食品の摂取が、どの程度腎結石のリスクと関連を持っているのでしょうか?

ほうれん草の摂取量が多いと腎尿路結石の発症リスクが増加

今回の研究は、アメリカの有名な医療従事者の、大規模な疫学データを事後解析したもので、ほうれん草などのシュウ酸を多く含む食品の摂取が、その後の腎尿路結石の発症に与える影響を検証しているものです。

HPFS(Health Professionals Follow-up Study)には、男性の医療従事者45985名が含まれ、NHS1(Nurse Health Study 1)には、登録時30から55歳の女性の医療従事者92872名が、NHS2(Nurse Health Study2)には、登録時25から42歳の女性の医療従事者101824名)が含まれています。

今回の研究ではこの3つの集団を個別に解析して、その比較を行なっています。観察期間は連結で44年を超えるという長期間の研究です。

その結果観察期間中に4605件の腎尿路結石の事例が発症し、食事のシュウ酸が最も少ない群と比較して最も多い群では、腎尿路結石の発症リスクが、男性で1.22倍(95%CI:1.03から1.45)、比較的高齢の女性(NHS1による)で1.21倍(95%CI:1.01から1.44)、それぞれ有意に増加していました。

NHS2を解析した比較的若年女性では、そうした有意な増加は認められませんでした。男性ではカルシウムの摂取量が少ない群において、よりリスクが高い傾向が認められました。

今回の検証では食事由来のシュウ酸のうち、その4割以上はほうれん草によるものでした。

そこでほうれん草の摂取量と腎尿路結石との関連をみたところ、最もほうれん草の摂取が少ない群と比較して多い群(月に8単位以上)では、腎尿路結石の発症リスクが、男性で1.30倍(95%CI:1.08から1.58)、比較的高齢女性(NHS1による)で1.34倍(95%CI:1.10から1.64)と、それぞれ有意に増加が認められました。

ほうれん草はあくを抜き、カルシウムを多めに摂取して

このように、食事のシュウ酸が多いと、若干ながら腎尿路結石のリスクは増加していました。ただ、それが主因であると言うほど明確なものではなく「原因の1つ」という程度のものと思われます。

また、以前からカルシウムやマグネシウムの摂取が多いと、腎尿路結石のリスクは低下するとされていて、その原因は食事のシュウ酸が消化管でカルシウムやマグネシウムと結合し、そのまま便中に排泄されるからと説明されていますが、それを裏打ちするようなデータも得られています。

従って、シュウ酸カルシウムによる腎結石が指摘された方は、ほうれん草などの野菜はなるべくあく抜きして使用する、というくらいの配慮は必要ですが、あまり神経質に食事制限をする必要はなく、むしろカルシウムを多めに摂ることなどに、気を付けた方が良さそうです。

▼参考文献

<著者/監修医プロフィール>

■石原藤樹(いしはら・ふじき)先生
1963年東京都渋谷区生まれ。信州大学医学部医学科、大学院卒業。医学博士。研究領域はインスリン分泌、カルシウム代謝。臨床は糖尿病、内分泌、循環器を主に研修。信州大学医学部老年内科(内分泌内科)助手を経て、心療内科、小児科を研修の後、1998年より六号通り診療所所長として、地域医療全般に従事。2015年8月六号通り診療所を退職し、北品川藤クリニックを開設、院長に就任。2021年には北品川藤サテライトクリニックを開院。著書多数。
・略歴
東京医科大学地域医療指導教授/日本プライマリ・ケア連合学会会員/医師会認定産業医/医師会認定スポーツ医/日本糖尿病協会療養指導医/認知症サポート医
・発表論文
-Differential metabolic requirement for initiation and augmentation of insulin release by glucose: a study with rat pancreatic islets. Journal of Endocrinology(1994)143, 497-503
-Role of Adrenal Androgens in the Development of Arteriosclerosis as Judged by Pulse Wave Velocity and Calcification of the Aorta. Cardiology(1992)80,332-338
-Role of Dehydroepiandrosterone and Dehydroepiandrosterone Sulfate for the Maintenance of Axillary Hair in Women. Horm. Metab.Res.(1993)25,34-36