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2021.12.10

健康の秘訣は笑いと生活習慣にアリ【笑トピ・#3】

明治大学名誉教授・日本笑い学会:山口政信

健康観に囚われすぎず、心と身体のバランスを保つ生活習慣を続けることが大切

健康の反対側にある言葉は、病ではなく不健康がふさわしいように思います。不健康な生活習慣が病を引き起こす、と考えるのが順当でしょう。生老病死という言葉があるように、私たちはこの世に生を受けた以上、老病死を避けて通ることはできません。しかし、「予防に勝る治療なし」を念頭に、未病に注意しながら暮らすことはできるはずです。

それは健康にしがみつくことではありません。描いている健康観にゆとりをもたせ、視野を広くして身体が自由に動くようにしておくことが大切です。このように記すのも、望ましいと思われる健康に対する見方や考え方が、岩登りの基本に似ているからです。

手足を岩角に安定させ、しかも動かしやすいようにするためには、上半身を岩壁から適度に離しておく必要があります。しかし、初心者は恐怖心から上半身を岩に密着させてしまい、不自由な姿勢になりがちです。このことは剣道の構えにおいても言えることです。初学者は打たれまいとして腕が縮む傾向にありますが、姿勢を正して腕を伸びやかに構えると、自分の剣先は相手に近く、相手の剣先は我が身から遠くすることができるのです。

囚われしがみつく様は健康美からも遠い存在ですが、スポーツの達人は理にかなった練習によって意識と筋感覚を一致させた美しい姿勢や動きを身に付け、高いパフォーマンスを得ています。その結果として、元・水泳選手の北島康介さんの「チョー気持ちいい…」といった言葉が飛び出したりするのです。

好きなことに打ち込んで、よく笑う人ほど快感ホルモンが出やすい

北島さんの例は、レース後で疲れているはずなのに、勝利を得たことにより神経伝達物質であるドーパミンというホルモンが、血液やリンパ液に継続して放出され、脳がそれを感じ取っている証の言葉です。心地よくジョギングしている時に出るとされるβエンドルフィンも然りです。モルヒネの機能を具有するこれらの快感ホルモンは、憂き世の雑事を忘れて笑っている時や、好きなことに夢中になっている時などにも活性化します。身体活動でもある笑いは快感ホルモンのはたらきを促し、更なる楽しさを演出してくれるのです。

快感ホルモンは笑う人に出やすく、その「逆もまた真なり」です。噺家の桂文珍師匠はこの句をもじって「ギャグもまた真なり」と語り、話に弾みをつけています。このギャグで笑った人は健康的だと言えますが、笑わなかった人が不健康だと断言できないところに性格の面白さがあります。何はともあれ、仲間が笑って接すれば、笑うのが不得手な人もいずれは笑いのコツを掴み、声に出して笑い合える日がくることでしょう。

著者プロフィール

■山口 政信(やまぐち・まさのぶ)
明治大学名誉教授
1946年生まれ。東京教育大学体育学部卒業・東京学芸大学大学院教育学研究科修了。日本笑い学会理事、日本ことわざ文化学会理事(事務局長)、スポーツ言語学会初代会長。全国中学校放送陸上競技大会80mハードル優勝(中学新)、日本陸上競技選手権大会/メキシコ五輪最終選考会400mハードル6位、フルマラソン完走121回。「創作ことわざ」に「わざ言語」の機能を見出し、体育・スポーツ教育を実践。学生には「体育を国語でやる先生」と呼ばれる。明治大学リバティアカデミーに「笑い笑われまた笑う」を開講し、笑ってもらうことをモットーとした。主著に『スポーツに言葉を』(単著)があるほか、『陸上競技(トラック)』・『笑いと創造第四集』(以上共著)、『笑いとことわざ』(共編著)、『世界ことわざ比較辞典』(共監修)など多数。

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