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2021.11.25

苦痛を伴って尿が出なくなる「急性尿閉」と癌リスクの関係【kencom監修医・最新研究レビュー】

kencom監修医:石原藤樹先生

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急に苦痛を伴って尿が出なくなる「急性尿閉」は、高齢の男性に多いのだそう。癌が原因で起こるという説もありますが、実際はどうなのでしょうか。

当連載は、クリニックでの診療を行いながら、世界中の最先端の論文を研究し、さらにkencom監修医も務める石原藤樹先生の人気ブログ「北品川藤クリニック院長のブログ」より、kencom読者におすすめの内容をピックアップしてご紹介させていただきます。

今回ご紹介するのは、British Medical Journal誌に2021年10月19日ウェブ掲載された、急性尿閉と尿路や女性器の癌リスクとの関連についての論文です。

▼石原先生のブログはこちら

急に尿が出なくなる急性尿閉とは

「急性尿閉」というのは、何らかの原因によって急に苦痛を伴い尿が出なくなる症状のことで、圧倒的に男性に多く、その罹患率は上記文献記載の海外データでは、年間男性1000人当たり2.2から8.8件で、年齢と共に急速に増加します。

推計として、70代の男性の10%、80代の男性の30%がこの症状を経験するとされています。

その最も多い原因は、男性では前立腺肥大による尿路の狭窄で、女性では膀胱排尿筋の機能障害です。

急性尿閉の原因として、それ以外に尿路や女性器、直腸の癌などが考えられますが、実際に尿閉の患者さんにおいて、どのくらいの癌のリスクを想定したら良いのかについての信頼のおけるようなデータは、これまでにあまり存在していませんでした。

急性尿閉患者の癌発症リスクを調査

今回の研究は、国民総背番号制のデンマークにおいて、全ての病院で診断された、50歳以上の初回の急性尿閉患者トータル75983名を登録し、その後の尿路系や女性器関連の癌、直腸や自律神経系由来の癌の発症リスクを、一般人口の発症リスクと比較しているものです。

その結果、最初に急性尿閉を起こしてから、3か月以内に前立腺癌が診断される確率は5.1%で、1年以内に診断される確率は6.7%、5年以内に診断される確率は8.5%でした。

尿閉から3か月以内に、年間1000人当たり218件の前立腺癌が、一般の発症率と比較して過剰に発症し、3か月から12か月未満では21件が過剰に発症していましたが、1年以降での発症率は、一般と比較して差はありませんでした。

尿路系の癌については、尿閉発症3か月以内において、一般の発症率と比較し年間1000人当たり56件が過剰に発症、女性の外陰部癌については同様に24件が、直腸癌については同様に12件が、神経系の癌については2件が、過剰に発症していると計算されました。

50歳以上の急性尿閉は癌の強い予測因子

このように、多くの関連癌の発症リスクは、初回の急性尿閉後3か月以内のみ増加していましたが、前立腺と尿路系の癌については12か月未満まで、女性の浸潤性膀胱癌については、数年に渡りそのリスクの増加が認められていました。

50歳以上の年齢における初回の急性尿閉は、その後3か月の尿路系や女性器系などの癌の強い予測因子で、こうした症状が出現した際には、癌の検索を積極的かつ慎重に行う必要がありそうです。

▼参考文献

<著者/監修医プロフィール>

■石原藤樹(いしはら・ふじき)先生
1963年東京都渋谷区生まれ。信州大学医学部医学科、大学院卒業。医学博士。研究領域はインスリン分泌、カルシウム代謝。臨床は糖尿病、内分泌、循環器を主に研修。信州大学医学部老年内科(内分泌内科)助手を経て、心療内科、小児科を研修の後、1998年より六号通り診療所所長として、地域医療全般に従事。2015年8月六号通り診療所を退職し、北品川藤クリニックを開設、院長に就任。2021年には北品川藤サテライトクリニックを開院。著書多数。
・略歴
東京医科大学地域医療指導教授/日本プライマリ・ケア連合学会会員/医師会認定産業医/医師会認定スポーツ医/日本糖尿病協会療養指導医/認知症サポート医
・発表論文
-Differential metabolic requirement for initiation and augmentation of insulin release by glucose: a study with rat pancreatic islets. Journal of Endocrinology(1994)143, 497-503
-Role of Adrenal Androgens in the Development of Arteriosclerosis as Judged by Pulse Wave Velocity and Calcification of the Aorta. Cardiology(1992)80,332-338
-Role of Dehydroepiandrosterone and Dehydroepiandrosterone Sulfate for the Maintenance of Axillary Hair in Women. Horm. Metab.Res.(1993)25,34-36