メニュー

2021.10.04

「稼ぎが少ない方が家事をするのは当然」の落し穴|「無償労働の価値」を知らない人が認識すべき事

東洋経済オンライン

「夫が家事や育児をせず、仕事と家庭の両立が難しいので、フルタイム勤務をやめてパート勤務に移りたい」という相談に、ファイナンシャル・プランナーの内藤眞弓氏はどう答えるのでしょうか?(写真:プラナ/PIXTA)

参照元:https://toyokeizai.net/articles/-/459329?utm_source=deschl&utm_medium=http&utm_campaign=link_back&utm_content=article

「夫が家事や育児をせず、仕事と家庭の両立が難しいので、フルタイム勤務をやめてパート勤務に移りたい」という相談に、ファイナンシャル・プランナーの内藤眞弓氏はどう答えるのでしょうか?(写真:プラナ/PIXTA)

夫婦共働きで夫のほうが収入が多い場合、妻の家事や育児の負担が多くなりがちというご家庭は多いと思います。しかし、妻の収入が夫より少ないからといって、妻の仕事は決して楽ではなく、やがて仕事と家庭の両立が難しくなり、フルタイムからパート勤務への転換を考え始めます。

3000以上の家計を診断した人気FPが教える お金・仕事・家事の不安がなくなる 共働き夫婦 最強の教科書』を上梓したファイナンシャル・プランナーの内藤眞弓氏のもとには、そうした共働き夫婦が頻繁に相談に訪れるそうですが、大抵「パート勤務をするつもりでしたが、今回ご相談して、夫婦で考え方が変わり、フルタイム勤務を続けることにしました」という結論になるそうです。いったい、なぜなのでしょうか?

子育て中の共働き妻Uさんの悩み

予測不能な動きをする子どもの手綱をさばきつつ、永遠に終わらない家事に追われ、保育園のお迎えに間に合うよう職場を慌てて飛び出す日々。


『3000以上の家計を診断した人気FPが教える お金・仕事・家事の不安がなくなる 共働き夫婦 最強の教科書』(書影をクリックすると、アマゾンのサイトにジャンプします。紙版はこちら、電子版はこちら。楽天サイトの紙版はこちら、電子版はこちら

何もしない夫に「少しは手伝ってよ」とブチ切れた瞬間、「稼ぎの少ないほうが家事をするのは当たり前だろう」とカウンターパンチ。「夫は私より稼ぎが多いという理由で家事もせずソファでゆっくりスマホをいじったり、ゲームをしたり。私は稼ぎが少ないという理由で仕事、家事、育児と働きづめ」。

これって本当に当たり前なんだろうかと、言語化できないモヤモヤを抱える共働き女性は多いものです。ここまでひどいケースでなくても、夫がいつも遅くまで仕事をしているので、保育園の送り迎えから食事の支度、洗濯、掃除まで、ほとんどワンオペという共働き妻も少なくありません。Uさんもその1人でした。

Uさんの両親は「女の子だから」といって枠をはめるようなことは一切しませんでしたし、Uさん自身も女性だからと意識することはありませんでした。就職してからもそのスタンスは変わることなく、多少負荷がかかる仕事にも挑戦し、仕事で手ごたえを感じる日々でした。

Uさんの夫は大学時代の同級生で、自然な流れで30歳になる前に結婚しました。子どもが生まれるまでは夫婦ともに仕事中心の生活で、食事は外食になることも多く、週末にまとめて掃除をするくらいで、家事を意識することは特にありませんでした。その生活が一変したのは子どもが生まれてからです。

夫婦ともに実家が遠くにあり、両親のサポートは期待できません。夫はそれまでの生活を変えるという発想はなく、早朝から夜遅くまで相変わらずの長時間労働です。必然的に保育園情報の収集から申し込みまでの一切を担うのはUさんでした。

夫は帰りが遅いこともあり、たまに子どもをお風呂に入れるくらいがせいぜいで、しかもタオルや着替えを用意したり、洗い終わった子どもを受け取って、細々とケアをするのはUさんです。

学生のときも共働きをしていたときも、夫に劣等感を持つことはなく、お互いのいいところも欠点も、それぞれの個性として受け止めてきたつもりでした。それがどうも「きしみ始めている」という感覚が迫ってきます。

家庭内だけではありません。キャリアを途絶えさせたくないと必死で保活をし、意気揚々と復帰した職場も、なんだか居心地の悪さを感じるようになりました。

子どもの急な発熱で早退したり休んだりしていて肩身が狭く、残業や泊りがけの出張ができなくなったことで、出産前と同様の成果が出せなくなり、「会社にも迷惑をかけているのではないか」など、ネガティブな思考が浮かんでは消える毎日です。

フルタイムをやめてパートになれば解決する?

Uさんはすっかり疲れ果て、とうとう思い余って、「中途半端なままじゃ子どももかわいそうだから、パートになろうかと思う」と夫に切り出しました。夫は渡りに船です。これで「家事をして」と責められたり、疲れてイライラする妻を見なくてすむわけですから。

心配なのはお金のこと。でもUさん夫婦はヤリクリすれば何とかなりそうだと思っています。今は時間がないのでついお総菜を買ったり、外食することもありましたが、そんなこともしなくてすみますし、お迎えに間に合わなくてタクシーを利用することもなくなります。

以上は、私のところにご相談に見える共働きカップルの標準的なパターンです。細かい部分はともかく、流れとしては、家庭も仕事も先が見えない中、このまま漫然と続けていくくらいなら、思い切って仕事をやめて(パートになって)、子どもにもしっかり手をかけたい、でも経済的にやっていけるだろうかというご相談です。

相談とはいっても、皆さんすでに妻がフルタイムの仕事をやめる気持ちは決まっていて、あとはファイナンシャル・プランナーからお墨付きをもらいたいというのが本音のようです。

「世帯売り上げ」はヤリクリではどうにもならない

ファイナンシャル・プランナーの私がまずやることは、価値判断を入れることなく、事実の確認と将来の予測を行うことです。

Uさんの場合、夫の年収が約500万円、妻が約340万円で世帯年収は840万円です(手取りは夫が約390万円、妻が約270万円)。今は自然体で年間200万円から250万円の貯蓄ができています。ご相談時点での貯蓄合計額は700万円です。

お子さんが3歳なので、このままの収支が続くとすれば、お子さんが中学に入学する10年後は、貯蓄が3000万円前後になっているはずです。

一方、Uさんの収入が150万円ダウンしたとすると、年間貯蓄額は50万円から100万円となり、10年後の貯蓄は1100万~1600万円程度です。ただ、子どもが成長するとともに、家計費は膨らんでいくことには注意を促します。

食費や水道光熱費、お小遣いはもちろんのこと、行動範囲が広がれば交通費もかかりますし、スポーツや音楽などの習い事にお金がかかるようになるかもしれません。

子どもの教育費も家計収支を大きく左右する要因です。中学から私立に進学する可能性とか、大学進学した場合の費用を親が負担するのかといったことも考えておく必要があります。仮に、小学校4年くらいから塾通いが始まるとするなら、収入がダウンするとまったく貯蓄ができなくなる可能性もあります。

ただし、あくまでもヤリクリすることなく、今の支出が続いたらという前提です。では、「何とかなる」レベルまでのヤリクリ、つまり今の年間貯蓄額をあまり減らさないためのヤリクリとはどの程度のヤリクリなのでしょう。

それを明らかにするために、現在の年間支出を整理して、ヤリクリできる支出とヤリクリできない支出に分けます。食費や日用品費、水道光熱費はヤリクリするには限界があります。ヤリクリしすぎて生活の質が下がったり、健康を害しては元も子もありません。

なので、どうしても趣味や旅行に関する費用、お小遣いなどが減らされる憂き目にあいます。さらに外食費、タクシー代、洋服代など、少しずつ削っていっても、なかなか150万円という収入減を埋めることは容易ではありません。

150万円を節約しようとすると、月に12万5000円節約する必要があります。贅沢はしないようにしても、人付き合いや子どもへのお金のかけ方にも影響が出る金額です。

もっと将来に目を転じてみれば、退職金や老齢厚生年金への影響も無視はできません。また、夫の所得が定年まで安定しているかもわかりません。そのような確認作業をやっていくうちに、お二人の顔が暗くなっていきます。

いくら夫の稼ぎのほうがいいといっても、妻の減収分を今の年収に上乗せして稼ぐことは不可能です。しかも、女性の収入が平均的に男性より低いのは、社会的要因も大きく、女性の責任ではありません(前回記事「「時短勤務」を極力避けるべきこれだけの理由」参照)。

であれば、2人で力を合わせて世帯の「売り上げ」確保に力を注ぐほうが建設的です。「何とか今の世帯売り上げを確保する方策を話し合ってみませんか」と水を向け、お二人の顔が少し明るくなったところで、Uさんに今の生活を続けることの困難さを具体的にお話ししていただきました。

有償労働と無償労働を足したら、妻のほうが長かった

Uさんが語ったのは次のようなことです。

・いつも時間に追われて子どもに当たってしまい、そのたびに自分を責めてしまう
・ 夫は仕事だけしかしていないのに、そのことで夫自身を責めることはないのが理不尽
・家での夫の様子を見ていると、家事や子どもの世話もやれるはずなのに、そもそも自分の仕事とは思っていない
・職場の同僚や上司とうまくいってないわけではないが、以前のようには働けていないことで、申し訳ないというより悔しい思いがある

Uさんの平日の家事・育児・労働時間は、通勤時間を含めて約14時間半です。そのうち家事や子どもの世話に充てる時間は約4時間。この4時間はいわゆる無償労働です。夫は確かに14時間と長時間労働ですが、全労働時間はUさんと同じくらいで、ほぼ有償労働で占められています。

Uさんの夫の稼ぎは、Uさんの無償労働によって支えられている現実が明らかになりました。Uさんの夫は、自分のほうが長く働いて多く稼いでいるので、家事は手伝い程度でいいと思い込んでいたのが、無償労働を入れると妻のほうが労働時間が長いことに驚き、申し訳なさそうにしていました。

「世帯売り上げ」を確保するためにできること

そこで、世帯売り上げを減らさなくてすむために、どうしたらUさんの不公平感を払拭できるのかを話し合おうということになりました。このように、さまざまな材料をテーブルに乗せ、夫も自分事として考えるようになったことで、Uさんの気持ちはほぐれていきました。

その後、Uさんは家事の見える化をして、夫もともに担える方法を考えたり、便利な家電をリストアップしたり、家事サービスの外注を検討したり、地方に住む親に頼んで仕事の繁忙期など1カ月のうちの3日から1週間くらい来てもらえないかなど、可能かどうかは深く考えず、とりあえずアイデアを口に出して話し合ってみたそうです。

家事の外注は贅沢だと思っていたUさんでしたが、自分がパート勤務に転換することで月に十数万も収入が消えてしまうことを考えれば、必要経費だと割り切れるようになりました。

実は、Uさんが前向きになれたのには、もう1つの理由がありました。将来予測を行うときに使った「ライフプラン表」です。3歳の子どもは10年後には中学生になっているという事実、そして今の仕事を続けた先の10年後の自分、パート転換した10年後の自分を想像してみたそうです。

そして、今の生活を続けることの困難さを口に出してみたとき、職場での困難さは自分の思い込みかもしれない、単に逃避しているだけかもしれないと気づきました。子どもが生まれるまでの自分のキャリア、そしてこれから30年以上続くことになる職業生活を考えたとき、「ここでは終われない」という気持ちが湧き上がったといいます。

家族のあり方や働き方など、1人ひとり価値観は異なります。今だけではなく、将来も展望しながら、自分はどのような暮らしを望むのか、その暮らしを実現するためには、どんな方法があるのか、1人で抱え込まず、パートナーや職場の人、親族、ファイナンシャル・プランナーなど周りの人も巻き込んで、話し合いや試行錯誤を重ねていってみてはいかがでしょうか。

記事画像

内藤 眞弓:FP&コミュニティ・カフェ代表

【あわせて読みたい】 ※外部サイトに遷移します