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2021.08.04

「眼のトレーニング」が仕事の作業効率を上げる訳|日本代表のアスリートも実践している

東洋経済オンライン

慣れないリモートワークにより、集中力が続かない、ミスが増えた……。その原因は眼にあるかもしれません(写真:プラナ / PIXTA)

参照元:https://toyokeizai.net/articles/-/445622?utm_source=deschl&utm_medium=http&utm_campaign=link_back&utm_content=article

慣れないリモートワークにより、集中力が続かない、ミスが増えた……。その原因は眼にあるかもしれません(写真:プラナ / PIXTA)

慣れないリモートワークが原因で、集中力が続かない、ミスが増えた、仕事の作業効率が下がったと実感するビジネスパーソンは多いのではないだろうか。では、作業効率向上に眼のトレーニングが有効だとしたらどうだろう?

視覚とメンタル機能を同時に鍛える「メンタルビジョントレーニング」を提唱し、フェンシングや野球、バレーボールなどのオリンピック日本代表選手もサポートしているのが、臨床心理士の松島雅美氏だ。一般の社会人向けにもオンライン講座を持つ松島氏に、ビジネスパーソンにも役に立つ「眼のトレーニング」について聞いた。

眼の「悪い使い方」が体の歪みにつながる

臨床心理士、公認心理師である松島雅美氏は、発達障がいや学習不振を抱える子どもたちの支援に取り組む一方、パフォーマンス向上を目指すアスリートのサポートも実践している。サポートしているアスリートの中には、今回の東京オリンピック日本代表のフェンシング、野球、バレーボールの選手等も含まれるという。

松島雅美(まつしま・まさみ)/臨床心理士・公認心理師 Je respire株式会社代表取締役・国際メンタルビジョントレーニング協会代表理事。1972年広島県生まれ。京都女子大学大学院修士課程修了。阪神・淡路大震災時に開設された「兵庫県精神保健協会こころケアセンター」にて2年間被災者のPTSDケアに携わる。医療・教育・福祉・一般企業など延べ2万人以上のカウンセリング経験で感じてきた、日本におけるメンタルケアへのネガティブなイメージを変えたいといった想いから、情報処理能力を上げる眼のトレーニング×メンタル機能向上のプログラム(メンタルビジョントレーニング)を構築

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松島雅美(まつしま・まさみ)/臨床心理士・公認心理師 Je respire株式会社代表取締役・国際メンタルビジョントレーニング協会代表理事。1972年広島県生まれ。京都女子大学大学院修士課程修了。阪神・淡路大震災時に開設された「兵庫県精神保健協会こころケアセンター」にて2年間被災者のPTSDケアに携わる。医療・教育・福祉・一般企業など延べ2万人以上のカウンセリング経験で感じてきた、日本におけるメンタルケアへのネガティブなイメージを変えたいといった想いから、情報処理能力を上げる眼のトレーニング×メンタル機能向上のプログラム(メンタルビジョントレーニング)を構築

彼女が提唱する「メンタルビジョントレーニング」は、こうした子どもたちやアスリートの間で数多くの実績を上げているという。いったいどのようなものなのだろうか。

「『ビジョントレーニング』というのは、眼から入った情報を脳が的確に処理してスムーズに動作できるようにするトレーニング法で、昔からあるものです。ただ専門性が高く、指導できる人が少ないため、なかなか日本では普及していませんでした。これを一般の人にもわかりやすく、かつ、メンタル機能向上の効果も取り入れたのが『メンタルビジョントレーニング』です」(松島氏)

トレーニング内容は多岐にわたるが、たとえば親指を使った眼球ストレッチがある。

まずは眉間から30cmぐらい離れた場所にグッドサインの要領で親指を立てる。そして親指の先に両目の焦点を合わせる。焦点を合わせたまま、首を左に回していく。こうすると眼球を支える筋肉が左に伸びるのを感じるはずだ。続けて、右、上、下と同様の動作を実行する。これを続けていくと体の歪みも改善するという。

眼の使い方には個々で差があり、眼球の筋肉が凝ると同じような方向を見る癖がつく。体は視線のほうに傾くようにできているので、それが体の歪みにつながる。目線はバランスの重要な要素でもあるため、眼球の筋肉をほぐすことで、眼の使い方の癖が修正され、体の歪みも改善されていくのだ。

「体が歪んでいては思うように体を動かせませんし、姿勢が整わないと心も整いません。ですから、まずはこのストレッチを準備運動として行うことを推奨しています」(松島氏)

体の歪みが取れるということは、バランスがよくなるということでもある。都内のある私立高校のアスリート科でメンタルビジョントレーニングが必修科目となった。授業の第1回と最終回に行った視覚機能チェックの結果を比較したところ、最も伸びたのが陸上部だった。

一方、第1回のチェックでいちばん成績がよかったのは水泳部だった。「泳ぎに眼のはたらきは関係ないと考えられがちですが、水泳はバランスが大事なスポーツです。つまり競技レベルが高い選手は視覚機能もよいと考えられます」と松島氏は解説する。

アスリートに大切なのは動体視力ではなかった!

「眼を鍛える」と聞くと、多くの人は動体視力を鍛えることだと考えるのではないだろうか。アスリートも同様で、たとえば野球選手だとピッチャーが投げるボールが速く感じると不安になり、動体視力を鍛えようとしがちだ。しかし動体視力が最優先ではないと松島氏は言う。

「時速140km、150kmといったスピードになると眼で追っても間に合わないので、動体視力よりも瞬間的に状況・状態を認識する『瞬間視』の力のほうが重要になります。動体視力は眼球運動が基本となるためいわゆる『見るトレーニング』ですが、瞬間視は逆で視野を広くして、『ジッと見ないトレーニング』となります」(松島氏)

「広くぼやっと見る」ことを習慣化することが極めて重要だと松島氏は強調する。人間は不安なときには、対象をジッと見つめ、少しでもよく見ようと前のめりになる。その姿勢だと視野が狭まることでますます不安になり、体の動きも制限されてしまう。この状態に陥ったときだけ「広くぼやっと見る」ことを実践するのは難しい。習慣化できている人だけが、緊張しているときでも状況を広く俯瞰でき、新しい情報を取り込めることで不安から脱出できるのである。

メンタルの面でも、視野を広げたり、瞬間視を鍛えたりするトレーニングをすることで、スピードに対する不安を軽減し、姿勢や動作が安定するため、実際に打率がアップするなどの効果が見られるという。

瞬間視を鍛えるトレーニングとして有効なのが、眼科医の平松類氏が提唱する「ガボール・アイ」だ。

これは、ガボールパッチという縞模様を利用した視力回復法である。ガボールパッチは、ノーベル物理学者デニス・ガボールがホログラフィーを発明する際に考案した画像処理方法で作成される図形であり、視力回復のために作られたものではない。だがその後の研究で脳の視覚野に作用することがわかり、ガポールパッチを視力回復に応用する道が開けたのである。

松島氏は、ガボール・アイをメンタルビジョントレーニングに取り入れており、その効果をこう語っている。「『ガボール・アイ』のトレーニングによって、対象物を見すぎない、ぼやっと見えているものでも的確に判断できるという力が身につきます。これが特にスピードの速い、小さなボールを扱う競技に効果的であることから、私はガポール・アイを推奨しているのです」。

ここまで、

 眼の筋肉のストレッチをすることで眼精疲労や体の歪みが緩和され、姿勢の改善とともに体のバランスが良くなる

 一歩引いて広くぼやっと見ることを習慣化することで、緊張や不安に対処しやすくなる

といったことを聞いてきた。

では、こうしたトレーニングは、ビジネスパーソンの業務にも役に立つのだろうか。

松島氏に、作業効率を上げたい、ミスを減らしたいと思うときに、どんなトレーニングがよいか聞いたところ、「それは集中力を高めるトレーニングではない」と意外な返事が返ってきた。

必要なのは集中ではなく…

一般に人は集中しようと思うと、対象に近づいてジッと見つめようとする。だがアスリートにとって大切なのはジッと見る力ではなく、一歩引いて広く見る習慣が大切なのだ。ビジネスパーソンにとっては、細かいところに注目することも大事であるが、一歩引いて広く全体を見る力も大切なのである。

たとえば書類を細かく何度も見直しているのにミスがなくならないのであれば、書類から眼を遠ざけて、全体を見るようにすると、スムーズに眼球運動ができていれば流れの中で違和感を見つけることができるようになる。見ようと思って一点集中するほど見るべきところが見えなくなっているということも多い。眼には映っていてもでも脳が認識していないと見えたことにならないからだ

ビジョントレーニングは元来、眼から入った情報を脳がスムーズに処理できるようにするためのトレーニングである。それを発展させたメンタルビジョントレーニングはメンタルを元気にするトレーニングでもある。メンタルビジョントレーニングを実践することで、作業効率を上げたり、ミスを減らせたりできるだけでなく、広く周りを見る力やストレス対処など社会生活に欠かせない力もついていくというわけだ。

メンタルが不調な人にとっては、作業効率が上がることで時間的余裕ができることも大きい。その時間をストレス処理に充てることで、メンタルの不調から早く回復できるからだ。

なおリモートワークでメンタル不調に陥っている人の多くは、アウトプットが少なくなっていることが不調の理由だと松島氏は指摘する。人間はアウトプットすることで情報を整理しているわけだが、整理ができないとメンタルに不調をきたすのである。

アウトプットには具体的な成果物だけではなく、相談のために言葉をまとめたりすることも含まれる。そればかりか雑談も有効なアウトプットだ。雑談で言葉を取捨選択している行為も立派な情報整理なのだ。

したがってあなたが上司であるならば、部下と1日5分でもいいので、定期的に話をする時間を作ってあげてほしいと松島氏は言う。たったそれだけの時間でも、情報整理に使えれば、メンタル不調は大いに解消されるのだ。

視野を広げることが大事

日本の学校教育で我々は、「よく見なさい」ということを教わってきた。細かく、厳密に、注意深く、間違いなく物事を見ることが大切だとたたき込まれてきたのである。しかし生活や仕事の中でどれだけそのようなことが必要だろうか。


『1日3分見るだけでぐんぐん目がよくなる! ガボール・アイ』(書影をクリックするとアマゾンのサイトにジャンプします)

本当に「よく見る」には、1つ1つをじっくり見ることも必要だが、一歩引いて広く全体を見ることも大切なのだ。「視野を広げろ」という表現があるが、これは比喩的な意味だけでなく、物理的にも広く周囲も含めて対象を見ろということでもあるのだ。

ビジネスパーソンにとっても、視野の広さは大切である。視野を広くするためには眼に力を入れずにものを見て正確に情報をインプットする力を身につけることが必要だ。そのトレーニングとしてはガボール・アイがおすすめだと松島氏は推奨する。

ガボール・アイで眼と脳の連携を鍛えながら、日常生活では普段から「全体を見る」習慣をつけることが大切だとも言う。「普段歩いている道にお花が咲いているところは何カ所ありますか? いつも通る曲がり角はどんな色ですか? 広く見る習慣がつくと、空気を読む、気が利くといった、できるビジネスパーソンに欠かせない社会的スキルも向上します」(松島氏)。

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森川 滋之:ライター

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